富士山─信仰の対象と芸術の源泉
信仰の対象としてだけでなく、国内外で数多くの芸術作品のインスピレーションを与えたことが評価された富士山。優美な姿は日本の象徴とされる

遺産DATA

地域 : 東・東南アジア 保有国 : 日本国 分類 : 文化遺産 登録年 : 2013年 登録基準 : (iii) (vi) 遺産の面積 : 207.021㎢ バッファ・ゾーン : 496.277㎢ 座標 : N35 21 39 E138 43 39

about

成層火山としての富士山

標高3,776mの日本最高峰である富士山は、独立した成層火山であり、山腹の傾斜は標高が高くなるにつれて勾配を増す、類まれな美しい円錐形をしています。山麓には、繰り返し流れ出た溶岩によって何層にもわたる溶岩層が堆積し、周辺には広大な裾野が広がっています。海面から山頂まで傾斜が連続する成層火山としては、世界有数の高さを誇ります。約1万年前、それまで存在していた古富士火山の北西山腹付近から流れ出した溶岩が古富士火山を完全に覆い尽くしました。その後、約5,600年から3,500年前にかけて、ほぼ現在の姿が形成されました。

信仰の対象としての富士山

富士山が形成された時代は、縄文時代から弥生時代にかけてであり、噴火や溶岩の流出を繰り返す富士山は、恐ろしくも神秘的な山と考えられ、古くから人々に遥拝の対象として崇められてきました。古代律令国家が確立した8世紀後半以降には、繰り返される噴火を鎮めるために、富士山の火口に鎮座する神を「浅間大神」として祀り、富士山そのものを神聖視するようになりました。11世紀後半に富士山の噴火が鎮静化すると、役行者を開祖とする修験道の聖地として多くの修験者が山中で修行を行い、山頂への登拝が始まりました。その後、修験者に導かれた一般の道者も山頂を目指すようになり、17世紀以降は富士山の信仰集団「富士講」が流行し、多くの人々が登拝を行うようになりました。登山者を支援するための「御師宿舎」などの施設も整備され、現在では夏の登山シーズンには多くの登山客が山頂を目指し、「御来光」を拝んだり、火口縁を巡る「お鉢巡り」を体験したりしています。

芸術の源泉としての富士山

雄大で美しい富士山は、日本人のみならず、世界中の芸術家たちにも芸術的インスピレーションを与えてきました。数えきれないほどの芸術作品の創作の源泉となり、絵画、文学、詩歌、演劇などの題材として用いられてきました。日本最古の詩集『万葉集』や、日本最古の散文物語『竹取物語』、日本最古の障子絵『聖徳太子絵伝』などの文学作品や絵画作品にも取り上げられています。12世紀以降、日本の政治の中心が京都から鎌倉へ移ると、両都市を結ぶ富士山南麓の街道の往来が盛んになり、そうした人々の記録などを通じて富士山の存在が日本中に広まっていきました。江戸時代には、葛飾北斎の『冨嶽三十六景』や歌川広重の『東海道五十三次』など、富士山を描いた浮世絵が人気を集め、これらは海外にも輸出されました。それらはゴッホやモネといった西洋の芸術家にも大きな影響を与えました。富士山は近現代においてもその芸術的価値が失われることはなく、横山大観の屏風絵『群青富士』や、夏目漱石、太宰治といった作家の文学作品にも描かれています。

アクセス

【山梨県側】吉田ルートの富士スバルライン五合目が起点。電車の場合は、富士急行線「河口湖」駅で五合目行きの登山バスに乗り換え。高速バスの場合、東京方面からバスタ新宿から富士山五合目行が運行されている(開山期間中のみ)。名古屋方面からは名鉄バスセンター発の河口湖~名古屋線、関西方面からは大阪発のフジヤマライナーで「河口湖」駅へ向かい、登山バスを利用。/【静岡県側】富士宮ルートへは東海道新幹線「三島」駅または「新富士」駅、JR東海道線「富士」駅、JR身延線「富士宮」駅から運行されている登山バスを利用する。御殿場ルートと須走ルートへは、JR御殿場線「御殿場」駅から出ている各ルートの登山バスを利用できる。

執筆協力者PROFILE

市川 賢司
市川 賢司
アレセイア湘南高等学校教諭/NPO法人世界遺産アカデミー認定講師

國學院大学文学部史学科卒。東海大学大学院文学研究科史学専攻修士課程修了。文学修士。NPO法人世界遺産アカデミー認定講師。世界遺産検定マイスター。歴史能力検定1級。世界史、世界遺産、ビッグヒストリーに関するさまざまな書籍の執筆・翻訳・監修を手掛けてきた。

遺産DATA

保有国 : 日本国
分類 : 文化遺産
登録年 : 2013年
登録基準 : (iii) (vi)
遺産の面積 : 207.021㎢
バッファ・ゾーン : 496.277㎢
座標 :N35 21 39 E138 43 39

アクセス

【山梨県側】吉田ルートの富士スバルライン五合目が起点。電車の場合は、富士急行線「河口湖」駅で五合目行きの登山バスに乗り換え。高速バスの場合、東京方面からバスタ新宿から富士山五合目行が運行されている(開山期間中のみ)。名古屋方面からは名鉄バスセンター発の河口湖~名古屋線、関西方面からは大阪発のフジヤマライナーで「河口湖」駅へ向かい、登山バスを利用。/【静岡県側】富士宮ルートへは東海道新幹線「三島」駅または「新富士」駅、JR東海道線「富士」駅、JR身延線「富士宮」駅から運行されている登山バスを利用する。御殿場ルートと須走ルートへは、JR御殿場線「御殿場」駅から出ている各ルートの登山バスを利用できる。

執筆協力者PROFILE

市川 賢司
市川 賢司
アレセイア湘南高等学校教諭/NPO法人世界遺産アカデミー認定講師

國學院大学文学部史学科卒。東海大学大学院文学研究科史学専攻修士課程修了。文学修士。NPO法人世界遺産アカデミー認定講師。世界遺産検定マイスター。歴史能力検定1級。世界史、世界遺産、ビッグヒストリーに関するさまざまな書籍の執筆・翻訳・監修を手掛けてきた。