ホープウェルの儀礼的土塁群
土塁は正確に大きな円や多角形を描いており、天文的な意味などを持っていたと考えられている

遺産DATA

地域 : 北米 保有国 : アメリカ合衆国 所在地 : Licking, Ross, and Warren counties, State of Ohio 分類 : 文化遺産 登録年 : 2023年 登録基準 : (i) (iii) 遺産の面積 : 3.207㎢ バッファ・ゾーン : 5.618㎢ 座標 : N40 3 13.17 W82 26 45.8

about

天文知識と幾何学的原理に基づいて建設された先住民の遺跡群

『ホープウェルの儀礼的土塁群』は、アメリカ合衆国北東部のオハイオ川中流域沿いにおいて、約2,000~1,600年前に築かれた8つの巨大な土塁群です。これらは、現在「ホープウェル文化」と呼ばれる先住民の伝統を最もよく示す遺構として位置付けられています。多くの土塁群には、広大な空間を囲む土塁と、意図的に配置された記念碑的な門が備えられています。土塁は地形に応じて幾何学的に正確な円形、四角形、八角形などの形状で構築されており、地域全体で共通して用いられた標準寸法や幾何学的原理に基づいて建設されたと考えられています。内部には複数の墳丘(塚)が存在し、土塁群は主に土塁、門、墳丘によって構成されています。これらの構成要素は、太陽および月の動きを考慮して配置されたとされています。

多様な特徴を有する土塁群

オクタゴン土塁群は、八角形および円形の土塁によって構成されています。円形土塁の直径は321m、高さは1~2mで、「オブザーバトリー・サークル」と呼ばれています。ホープトン土塁群は、サイオト川沿いにある円形および四角形の土塁群であり、その四角形の北西と南東の角を結ぶ対角線は、夏至の日没および冬至の日の出の方位と一致しています。マウンド・シティはホープトン土塁群の対岸に位置し、正方形に近い丸みを帯びた四角形の土塁で構成され、内部には25基の埋葬塚が含まれています。ホープウェル・マウンド群は最も広大な面積を有し、0.5㎢の範囲内に複数の埋葬塚や円形土塁が存在しています。黒曜石で作られた儀式用の刃物など、オハイオ州では通常見られない材料を用いた芸術品も出土しています。

考古学調査が解明するホープウェル文化

ホープウェル文化の集落跡は、土塁の外側で発見されています。このことから、土塁の内側は日常生活の場とは区別された神聖な空間であったと推定されています。遺跡から発掘された考古学的資料によれば、ホープウェルの人々は狩猟を主とした生活を営み、周囲の部族と広範に交易していたことが明らかになっています。銅や銀は五大湖地方、黒曜石はイエローストーン国立公園周辺、サメの歯や貝殻は大西洋およびメキシコ湾沿岸、雲母の板はアパラチア山脈からもたらされたものです。墳丘群が存在する場所は、単なる墓地ではなく、宗教的あるいはその他の儀式の場としても用いられたとされ、その際には交易によって入手した素材を用いた装飾品が用いられたと考えられています。

アクセス

ポート・コロンバス国際空港からオクタゴン土塁群まで車で約40分。

執筆協力者PROFILE

市川 賢司
市川 賢司
アレセイア湘南高等学校教諭/NPO法人世界遺産アカデミー認定講師

國學院大学文学部史学科卒。東海大学大学院文学研究科史学専攻修士課程修了。文学修士。NPO法人世界遺産アカデミー認定講師。世界遺産検定マイスター。歴史能力検定1級。世界史、世界遺産、ビッグヒストリーに関するさまざまな書籍の執筆・翻訳・監修を手掛けてきた。

遺産DATA

地域 : 北米
所在地 : Licking, Ross, and Warren counties, State of Ohio
分類 : 文化遺産
登録年 : 2023年
登録基準 : (i) (iii)
遺産の面積 : 3.207㎢
バッファ・ゾーン : 5.618㎢
座標 :N40 3 13.17 W82 26 45.8

アクセス

ポート・コロンバス国際空港からオクタゴン土塁群まで車で約40分。

執筆協力者PROFILE

市川 賢司
市川 賢司
アレセイア湘南高等学校教諭/NPO法人世界遺産アカデミー認定講師

國學院大学文学部史学科卒。東海大学大学院文学研究科史学専攻修士課程修了。文学修士。NPO法人世界遺産アカデミー認定講師。世界遺産検定マイスター。歴史能力検定1級。世界史、世界遺産、ビッグヒストリーに関するさまざまな書籍の執筆・翻訳・監修を手掛けてきた。