アヤ・ソフィア(ハギア・ソフィア)
薄い赤色が特徴のアヤ・ソフィア。2025年から初の大規模修復が行われている

構成資産DATA

ビザンツ建築の最高傑作

スルタンアフメト地区に立つアヤ・ソフィアは、ビザンツ建築の最高傑作と評され、オスマン建築に多大な影響を与えた建造物です。建築技術の高さ、壮麗なモザイク装飾など建築・芸術の面だけでなく、キリスト教とイスラム教の宗教的な面においても、きわめて重要な意味をもっています。元来はギリシャ語で「聖なる叡智」を意味する「ハギア・ソフィア」と呼ばれていました。歴史的には、キリスト教を公認したローマ皇帝コンスタンティヌス1世の息子であるコンスタンティウス2世が360年に建てた礼拝堂を前身としています。この礼拝堂は404年に焼失し、415年に再建されましたが、532年にユスティニアヌス1世に対して市民が蜂起したニカの乱によって再び焼失しました。ユスティニアヌス1世は動乱鎮圧後、すぐに再建を開始し、537年にアヤ・ソフィアを完成させました。1204~1261年の第4回十字軍に伴うラテン帝国成立期には、一時カトリック教会として使用された時期もありますが、約1,000年にわたりギリシャ正教会の総本山として信仰を集めました。

アヤ・ソフィア
巨大な控え壁(バットレス)は、オスマン帝国を代表する建築家ミマール・スィナンによって増設されたもの(©Wangkun Jia/Adobe Stock)

政治と宗教に翻弄される建造物

1453年にコンスタンティノープルが陥落すると、オスマン帝国のメフメト2世はアヤ・ソフィアを破壊することなく、直ちにモスクへと転用しました。内部にはイスラム教の聖地メッカの方向を示すミフラーブが備え付けられ、外部には4本のミナレットが建設されました。敷地にはマドラサや貯蔵庫、給食所、図書館、浴場、泉亭、スルタンの霊廟などが増設され、複合施設へと変貌を遂げました。18世紀にはイコン画も漆喰で覆われましたが、建物の基本構造が大きく改変されることはありませんでした。第一次世界大戦後、オスマン帝国が滅亡してトルコ共和国が成立すると、初代大統領ケマル・アタテュルクの命で、1935年から無宗教の博物館として一般に公開されました。漆喰で覆われていたイコン画も姿を現しました。2020年7月には、トルコのエルドアン大統領は博物館からモスクへと転換することを発表しました。現在、1階部分はイスラム教徒のみ立ち入り可能で、信徒以外の観光客は、モザイク画が残る2階エリアを有料で見学することができます。

アヤ・ソフィア
現在はモスクとなっているため、1階部分は信徒のみが立ち入ることができる(©Tommaso Ubezio/Unsplash)

オスマン建築への強大な影響

アヤ・ソフィアは伝統的なバシリカ式平面にドームを組み合わせた「ドーム・バシリカ」と呼ばれる形式です。中央の身廊に当たる部分には、高さ約56m、最大直径は約31mの大ドームと、その東西に2つの半ドームが架けられています。身廊は円柱列で側廊と分けられています。4本の柱とドームを滑らかにつなぐ「ペンデンティブ」と呼ばれる球面三角形の部位が、巨大なドームの荷重を支えています。また、大ドームの基部には40の小窓がぐるりと巡らされており、そこから光が差し込むことでドームが浮いているかのような神秘的な印象を与えます。この空間構成は、オスマン帝国のモスク建築に強い影響を与えました。

二つの宗教美術の共存

アヤ・ソフィア内部には6~14世紀にかけて描かれたさまざまなモザイク画が保存されています。8世紀の聖像破壊運動(イコノクラスム)以降は、キリストや聖母、皇帝など人物にまつわる図像も多く制作されました。なかでも後陣(アプス)の聖母子像と、2階ギャラリーにあるデイシスのモザイク画は代表例とされています。オスマン帝国によってモスク化されると、イスラム教に関連する要素も追加されました。ミフラーブ(メッカの方向を示す壁に設けられた窪み状の装飾)、ミンバル(説教壇)などが設置され、1847~49年に行われたスイス人建築家フォッサーティ兄弟による大修復の際には、直径7.5mの円盤(メダリオン)が設置されました。アッラーや預言者ムハンマド、正統カリフを讃えるカリグラフィーが書かれています。また、大ドーム天井の中央には太陽、その周囲にはコーランの「御光」章のカリグラフィー(上述の1847~49年の修復の一環で追加)、ペンデンティブには大天使ガブリエルの姿が描かれており、キリスト教とイスラム教の美術が同じ空間に共存してきました。アヤ・ソフィアがモスクとなった2020年以降は、後陣の聖母子像は白い布で覆われています。

デイシスのモザイク画
2階ギャラリーに残るデイシスのモザイク画。左から聖母マリア、イエス・キリスト、洗礼者ヨハネが描かれている(©Gerhard Reus/Unsplash)

執筆協力者PROFILE

NPO法人世界遺産アカデミー研究員

東京外国語大学言語文化学部卒。在学中にパレスチナやヨルダンなど中東地域への留学を経験。大手メディア企業勤務を経て、2021年より現職。書籍やテレビ番組等の監修を行う。

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東京外国語大学言語文化学部卒。在学中にパレスチナやヨルダンなど中東地域への留学を経験。大手メディア企業勤務を経て、2021年より現職。書籍やテレビ番組等の監修を行う。