キーウ:聖ソフィア聖堂と関連修道院群、キーウ・ペチェルーシク大修道院
ロシアの軍事侵攻で破壊される脅威に直面しているとして、2023年に危機遺産に登録された

遺産DATA

地域 : ヨーロッパ 保有国 : ウクライナ 所在地 : Kyiv, Ukraine 分類 : 文化遺産 登録年 : 1990年 範囲変更年 : 2005,2021年 危機遺産 : 2023年~ 登録基準 : (i) (ii) (iii) (iv) 遺産の面積 : 0.2852㎢ バッファ・ゾーン : 4.7608㎢ 座標 : N50 27 9.288 E30 31 0.7

about

「ロシア聖堂の母」や「ロシアの知の中心」が残る

9~13世紀にキリスト教圏の東端で栄えたキエフ大公国(キーウ・ルーシ)が首都キーウに残したキリスト教関連の建築物群です。キエフ大公国は10世紀末にギリシャ正教を国教として公認し、ビザンツ様式の教会や修道院が数多く建てられました。キーウの中心部にある聖ソフィア聖堂はキーウ・ルーシ全盛期の11世紀にヤロスラフ賢公によって建設されたキーウ最古の聖堂です。後にロシア各地の聖堂建築に影響を及ぼしたことから、「ロシア聖堂の母」と呼ばれます。郊外の高台に立つキーウ・ペチェルーシク大修道院はやはり11世紀に建設され、宗教・学問・教育の広い分野で中世ロシア有数の「知の中心」でした。13世紀にモンゴル軍により破壊されましたが、19世紀になって再興されました。世界遺産には、ペレストヴォ地域にある救世主聖堂も併せて登録されています。

ウクライナ侵攻による危機

2022年にロシアがウクライナへ侵攻し、首都キーウもミサイル攻撃を受けることとなりました。この事態を受け、ユネスコは2023年の第45回世界遺産委員会で、ここを「危機にさらされている世界遺産(危機遺産)」と指定しました。現在でもロシアの脅威は続いており、2025年6月には、聖ソフィア大聖堂の外壁の一部が損傷するなど、被害が及んでいます。

アクセス

2025年7月時点で、外務省からウクライナ全土に退避勧告が出ており、渡航は困難。

執筆協力者PROFILE

細谷 正文
細谷 正文
大東文化大学・フェリス女学院大学講師/NPO法人世界遺産アカデミー認定講師

早稲田大学卒業。損害保険会社勤務の傍ら世界遺産を勉強し、退職後いくつかの大学にて関連講座を担当。現在は大学講師と趣味の音楽(クラシック歌手)の二刀流。

Properties

聖ソフィア大聖堂

聖ソフィア大聖堂

St. Sophia Cathedral

11世紀の創建時はビザンツ様式とロシアの伝統様式が融合していたが、その後18世紀にピョートル大帝によりバロック様式に改築された。内部にはビザンツ・スタイルの宗教画が数多く残り、特にアプシス(半円形の祈りの場)上部には「オランス(祈り)」と呼ばれるモザイクで描かれた高さ約6mの聖母像がある。異なる色合いのモザイクが300万個以上使用されている。
キーウ・ペチェルーシク大修道院聖母就寝大聖堂(ウスペンスキー大聖堂)

キーウ・ペチェルーシク大修道院 聖母就寝大聖堂(ウスペンスキー大聖堂)

Dormition Cathedral, Kyiv-Pechersk Lavra

キーウ・ペチェルーシク大修道院はドニエプル川岸の丘にあり、金色のクーポラ(円屋根)が並び立つ独特の景観を形づくっている。一番大きな聖堂である聖母就寝大聖堂は第二次世界大戦中に爆破され、後に再建された。「聖母就寝」とは聖母マリアの昇天のことでギリシャ正教において使われる言葉である。
キーウ・ペチェルーシク大修道院洞窟群

キーウ・ペチェルーシク大修道院 洞窟群

Caves, Kyiv-Pechersk Lavra

キーウ・ペチェルーシク修道院は元は修道士の住んでいた洞窟の上に建てられたため、地上の建物だけでなく地下にも聖堂がある。修道院の名「ベチャラ」は「洞窟」という意味で、地下には修道士が神と向き合う重要な場があり、「下の修道院」と呼ばれている。修道士たちは地下にある独居房で生涯神に祈り続け、亡くなるとそこに埋葬された。
ベレストヴォの救世主聖堂

ベレストヴォの救世主聖堂

Church of the Saviour at Berestove

ペチェルーシク地区にある聖堂。ベレストヴォと呼ばれる地域は、10世紀にはキーウ・ルーシのウラジミール1世の離宮があり、政治の中心であったとされる。モンゴルのルーシ侵攻をはじめ他民族の攻撃により離宮は破壊されたが、救世主聖堂は再建され、一部にモンゴル侵攻前の12世紀の建築を残しながら現在も保存されている。

遺産DATA

保有国 : ウクライナ
所在地 : Kyiv, Ukraine
分類 : 文化遺産
登録年 : 1990年
範囲変更年 : 2005,2021年
危機遺産 : 2023年~
登録基準 : (i) (ii) (iii) (iv)
遺産の面積 : 0.2852㎢
バッファ・ゾーン : 4.7608㎢
座標 :N50 27 9.288 E30 31 0.7

アクセス

2025年7月時点で、外務省からウクライナ全土に退避勧告が出ており、渡航は困難。

執筆協力者PROFILE

細谷 正文
細谷 正文
大東文化大学・フェリス女学院大学講師/NPO法人世界遺産アカデミー認定講師

早稲田大学卒業。損害保険会社勤務の傍ら世界遺産を勉強し、退職後いくつかの大学にて関連講座を担当。現在は大学講師と趣味の音楽(クラシック歌手)の二刀流。