モン・サン・ミシェルとその湾
潮の満ち引きが絶景を生み出している

遺産DATA

地域 : ヨーロッパ 保有国 : フランス共和国 所在地 : Department of Manche, Region of Basse-Normandie 分類 : 文化遺産 登録年 : 1979年 範囲変更年 : 2007,2018年 登録基準 : (i) (iii) (vi) 遺産の面積 : 65.6㎢ バッファ・ゾーン : 1918.58㎢ 座標 : N48 38 8.016 W1 30 38

about

西方における聖ミカエル信仰の中心地

モン・サン・ミシェルは、フランス北西部の英国とフランスに挟まれた湾に立つ、小高い丘の上にあります。この地域は、フランスの他の地域とは異なり、現在の英国やアイルランドなどで見られるケルトの文化が色濃く残ります。708年にケルト人のモン・トンブと呼ばれるケルト人の聖地だった場所に、聖ミカエルを祀る聖堂を築いたのが、モン・サン・ミシェル(フランス語で「聖ミカエルの山」)の始まりです。聖ミカエルの信仰は、イタリアの世界遺産『イタリアのロンゴバルド族:権勢の足跡(568774年)』に含まれるプーリア州の洞窟教会「サントゥアリオ・ディ・サン・ミケーレ・アルカンジェロ」に始まるとも伝えられますが、モン・サン・ミシェルはその信仰が遠くフランスに北西部にまで広がったことを示しています。 

ロマネスク様式の傑作となった修道院

現在のモン・サン・ミシェルのある一帯には、沿岸地域で海賊行為などを行っていたノルマン人が9世紀頃に侵入します。彼らは10世紀頃にフランス王の臣下となって定住し、ノルマンディー公国を築きました。966年にはノルマンディー公リチャード1世が聖ベネディクト会の修道士にこの地を与え、708年に聖ミカエルに捧げられた聖堂の上に修道院を築きます。その後、1023年頃からロマネスク様式の修道院の建設が始まり、西方のキリスト教圏にとって重要な巡礼地となりました。966年にベネディクト会の修道士たちが築いた修道院は10世紀末に丸天井をもつ地下礼拝堂に建て替えられましたが、15世紀の百年戦争の際に崩壊したため、18世紀に復元され、ノートル・ダム・スー・テール聖堂と呼ばれています。

天然の要塞としてフランス王国を支えたモン・サン・ミシェル

1066年にノルマンディー公ウィリアムがイングランドに攻め込みノルマン朝を開くと、英仏の関係は緊張状態になります。ノルマンディー公はフランス王の臣下であると同時に、イングランドでは王としてフランス王と対等な立場であったためです。1204年にフランスがノルマンディー公国を征服すると、モン・サン・ミシェルもフランス王フィリップ2世の寄進によって壮大なゴシック様式の建造物群が築かれました。そして1339年にイングランドとフランスの間で百年戦争が始まると、両国の間の拠点であったモン・サン・ミシェルも要塞化されます。百年戦争で、フランスの国土は次々とイングランドに征服されていきましたが、険しい岩山の上に垂直に建てられたモン・サン・ミシェルは、周囲の海流の激しさや潮の満ち引きを活かし、天然の要塞として攻撃を跳ね返しました。

潮の満ち引きが生み出す神秘的な景観

モン・サン・ミシェルが立つ砂州は、ヨーロッパでも最も潮の満ち引きの大きな場所です。干満差は最大で15kmもあり、春と秋の2回の大潮の時には、モン・サン・ミシェルは完全に海水に囲まれた孤島となります。かつて巡礼者たちは砂州を歩いて渡っていましたが、馬がギャロップする速度とも形容される速さで満ちてくる潮に流され、多くの巡礼者が命を落としたそうです。19世紀後半には堤防が作られ、安全にモン・サン・ミシェルを訪れることができるようになっていましたが、堤防によって潮の満ち引きが遮られ、周囲の生態系などにも影響が出たため、2015年からは潮の満ち引きを妨げにくい橋に置き換えられています。

アクセス

パリからレンヌ駅までTGVで約2時間。レンヌ駅からバスで約1時間半。島へは無料シャトルバスか徒歩。

執筆協力者PROFILE

宮澤 光
宮澤 光
NPO法人世界遺産アカデミー主任研究員

北海道大学大学院博士後期課程を満期単位取得退学。仏グルノーブル第Ⅱ大学留学。2008年より現職。世界遺産に関するさまざまな書籍の編集・執筆・監修を手掛けるほか、「チコちゃんに叱られる!」(NHK)などの多くのメディア出演や、全国各地で100本を超す講演・講座を実施している。著書に『13歳からの世界遺産』(マイナビ出版)、『世界遺産のひみつ』(イースト・プレス)など。

Trivia

聖ミカエルが築かせた聖堂

モン・サン・ミシェルには、聖ミカエルの伝説が残されています。708年のある日、近くの街アヴランシュの司教オベールの夢に、大天使ミカエルが現れ、「あの岩山に聖堂を立てよ」と告げました。小さな田舎街の司教にすぎないオベールは、どうせ夢だろうと聞き流します。再びミカエルが告げても聞き流すオベールに、3度目に現れたミカエルは夢ではない証拠を残しました。オベールの頭を指でふれたのです。ミカエルの指がオベールの頭にめり込み、雷に打たれたところで目覚めると、本当に頭に穴が開いていました。夢でなかったと驚いたオベールは、すぐに聖堂建築に取り掛かります。聖堂が完成すると、みるみるうちに潮が満ちてきて、一夜にしてモン・サン・ミシェルは海に浮かぶ孤島になりました。アヴランシュの教会付属博物館には、オベールのものとされる穴の開いた頭蓋骨が残されています。

聖ミカエルが築かせた聖堂

遺産DATA

所在地 : Department of Manche, Region of Basse-Normandie
分類 : 文化遺産
登録年 : 1979年
範囲変更年 : 2007,2018年
登録基準 : (i) (iii) (vi)
遺産の面積 : 65.6㎢
バッファ・ゾーン : 1918.58㎢
座標 :N48 38 8.016 W1 30 38

アクセス

パリからレンヌ駅までTGVで約2時間。レンヌ駅からバスで約1時間半。島へは無料シャトルバスか徒歩。

執筆協力者PROFILE

宮澤 光
宮澤 光
NPO法人世界遺産アカデミー主任研究員

北海道大学大学院博士後期課程を満期単位取得退学。仏グルノーブル第Ⅱ大学留学。2008年より現職。世界遺産に関するさまざまな書籍の編集・執筆・監修を手掛けるほか、「チコちゃんに叱られる!」(NHK)などの多くのメディア出演や、全国各地で100本を超す講演・講座を実施している。著書に『13歳からの世界遺産』(マイナビ出版)、『世界遺産のひみつ』(イースト・プレス)など。