ノートル・ダム大聖堂
2019年の火災の際にも奇跡的に残されたノートル・ダム大聖堂のファサード(正面)

構成資産DATA

地域 : ヨーロッパ 保有国 : フランス共和国 所在地 : Ile de France 登録名 : パリのセーヌ河岸

ノートル・ダム大聖堂と皇帝ナポレオン1世

パリ発祥の地であるシテ島にたつノートル・ダム大聖堂は、信仰だけでなく、政治や文化、歴史、教会建築など、さまざまな点から見てパリを代表する建造物のひとつです。現在みられる大聖堂は、モーリス・ド・シュリー司教によって1163 年に建設が開始され、1225年に身廊とファサードが完成。1250年にファサードの上に2つの塔がつくられました。その後も増改築が続けられましたが、1789年のフランス革命で大きな被害を受けます。廃墟となりかけていた大聖堂を保護したのは、ナポレオンでした。ナポレオンは自ら修復した大聖堂でフランス皇帝としての戴冠式を行い、ナポレオン1世となりました。

ルイ・ダヴィッド作「ナポレオンの戴冠」。ルーヴル美術館とヴェルサイユ宮殿に同じ絵がある

フランス中が悲しみに包まれた大火災

ノートル・ダム大聖堂は長い歴史の中で何度も被害を受け、そのたびに修復・再建されてきました。ナポレオンによる修復は応急処置のようなものでしたが、その後のヴィクトル・ユゴーの小説『ノートル・ダム・ド・パリ』の出版により価値が見直された大聖堂は、多くの歴史的建造物の修復を手掛けるヴィオレ・ル・デュクによって19世紀半ばに修復されました。しかしその大聖堂は、2019年4月の火災で尖塔と天井の一部が焼失してしまいます。パリの市民だけではなく、多くのフランス国民が衝撃を受け、マクロン大統領が沈痛な面持ちで特別の演説を行うほどの出来事でした。

ノートル・ダム大聖堂の火災
2019年4月に起こったノートル・ダム大聖堂の火災((c)www.alaincianci.com)

白く美しく蘇った貴婦人

尖塔の修復作業中であったことや、消防活動を行った人々の懸命な努力によって、多くの聖遺物などの収蔵品や3つのバラ窓、パイプオルガンなどが焼失を免れましたが、建物の被害は大きく修復活動は難航しました。フランス革命以降、国がノートル・ダム大聖堂の所有者であったため国家主導で修復が進められ、2024年12月に公開が再開されて再び美しい姿を私たちの前に現しました。尖塔の上に立つ新しい黄金の風見鶏は、炎の翼をもつ不死鳥に似た姿をしています。何度も困難から蘇るノートル・ダム大聖堂を象徴しているようです。

ノートル・ダム大聖堂内部
5年の歳月を経て蘇ったノートル・ダム大聖堂の身廊の天井

執筆協力者PROFILE

宮澤 光
宮澤 光
NPO法人世界遺産アカデミー主任研究員

北海道大学大学院博士後期課程を満期単位取得退学。仏グルノーブル第Ⅱ大学留学。2008年より現職。世界遺産に関するさまざまな書籍の編集・執筆・監修を手掛けるほか、「チコちゃんに叱られる!」(NHK)などの多くのメディア出演や、全国各地で100本を超す講演・講座を実施している。著書に『13歳からの世界遺産』(マイナビ出版)、『世界遺産のひみつ』(イースト・プレス)など。

構成資産DATA

所在地 : Ile de France

執筆協力者PROFILE

宮澤 光
宮澤 光
NPO法人世界遺産アカデミー主任研究員

北海道大学大学院博士後期課程を満期単位取得退学。仏グルノーブル第Ⅱ大学留学。2008年より現職。世界遺産に関するさまざまな書籍の編集・執筆・監修を手掛けるほか、「チコちゃんに叱られる!」(NHK)などの多くのメディア出演や、全国各地で100本を超す講演・講座を実施している。著書に『13歳からの世界遺産』(マイナビ出版)、『世界遺産のひみつ』(イースト・プレス)など。