コロッセウム
ローマ市内に残るローマ帝国を代表する建造物であるコロッセウム

もともとは違う名前だったコロッセウム

暴君として知られたローマ帝国皇帝ネロが68年に帝位を追われた後、ローマは内戦状態にありました。69年に皇帝となったウェスパシアヌスは、ローマ市民の不満のはけ口となる娯楽の場を与える意味もあり、ネロ帝の宮殿「ドムス・アウレア」の庭園跡地に新しい円形闘技場の建設を決めます。70年から始まった円形闘技場の建設は、次の皇帝ティトゥスの時代まで続き、80年に完成しました。当初は、ウェスパシアヌス帝が開いたフラウィウス朝に因んで「フラウィウス円形闘技場」と呼ばれていました。しかし、円形闘技場の近くにネロ帝の巨大なブロンズ像「コロッセオ・ディ・ネローネ(ネロの巨像)」が立っていたことから、いつからか「コロッセウム」と呼ばれるようになりました。ネロ帝は暴君として知られますが、一部の市民からは死後も根強い人気があったそうです。

コロッセウム
今も首都ローマの中心にあり、絶大な存在感がある(Ⓒdimabucci/AdobeStock)

世界最大の円形闘技場

完全な姿であった頃のコロッセウムは、高さ約50m、周囲約527mという世界最大の円形闘技場で、5~8万人もの観客を収容することができたそうです。ローマン・コンクリートなどのローマ建築の技術の粋が集められており、ローマ建築の特徴であるアーチ構造は、1階がドーリア式、2階がイオニア式、3階がコリント式と作り分けられていました。他にも日差しや雨から観客を守るためにロープと滑車で可動させる天幕まであったそうです。また80もの入口があり、「ヴォミトリア」と呼ばれる通路が観客の混雑解消のために効果的に配置されていました。現在でもスタジアムや劇場からスムーズに観客を移動させるレイアウトに「ヴォミトリウム」という建築用語が使われています。

コロッセウムの絵画
考えられる当時の様子を描いた絵画。全体の2/3ほどを覆う天幕があった(Ⓒpaul moiré/AdobeStock)

ローマ市民の社交の場

コロッセウムは、皇帝による「パンとサーカス」と呼ばれる政策の一環を担っていました。これは権力者から「食料」と「娯楽」を与えられることで政治に無関心になっていることを表現した言葉です。そのため、市民はコロッセウムに無料に入ることができ、皇帝が提供する剣闘士同士の戦いや剣闘士と野獣の戦い、処刑、競技会、水を張って船を浮かべたスペクタクルショーなどを自由に好きなだけ楽しみました。コロッセウムが完成した時には、記念行事が100日間続けられ、コロッセウムの舞台下にある小部屋から猛獣や剣闘士が場内にせり上がり民衆を楽しませるために犠牲となりました。こうした催しに多くの市民が訪れたことは、コロッセウムが階級を問わず、ローマ市民の社交の場になっていたことを意味します。

コロッセウム
剣闘士や猛獣は、床下に設けられた小部屋から、人力のエレベーターを使って地上に登場した(ⒸLars Johansson/AdobeStock)

良質な石切り場となった

コロッセウムの建設には、10万人以上の奴隷が駆り出されたと考えられています。用いられた石は、良質なトラバーチン石とよばれる堆積岩で、ローマから約30km離れたティヴォリで切り出されました。奴隷たちは、荷車や運河などを使って石を運び、コロッセウムを組み立てました。こうして完成したコロッセウムですが、歴史上何度も地震や火災、落雷などの被害にあい、1349年の地震では南側が崩壊しました。また、良質な石が使われていたため、ヴァティカン市国のサン・ピエトロ大聖堂や教会などの建築資材として切り出されてしまいました。

コロッセウム
木製の床を設置して、舞台として活用できるようにする計画もある(ⒸPetair/AdobeStock)

執筆協力者PROFILE

宮澤 光
宮澤 光
NPO法人世界遺産アカデミー主任研究員

北海道大学大学院博士後期課程を満期単位取得退学。仏グルノーブル第Ⅱ大学留学。2008年より現職。世界遺産に関するさまざまな書籍の編集・執筆・監修を手掛けるほか、「チコちゃんに叱られる!」(NHK)などの多くのメディア出演や、全国各地で100本を超す講演・講座を実施している。著書に『13歳からの世界遺産』(マイナビ出版)、『世界遺産のひみつ』(イースト・プレス)など。

執筆協力者PROFILE

宮澤 光
宮澤 光
NPO法人世界遺産アカデミー主任研究員

北海道大学大学院博士後期課程を満期単位取得退学。仏グルノーブル第Ⅱ大学留学。2008年より現職。世界遺産に関するさまざまな書籍の編集・執筆・監修を手掛けるほか、「チコちゃんに叱られる!」(NHK)などの多くのメディア出演や、全国各地で100本を超す講演・講座を実施している。著書に『13歳からの世界遺産』(マイナビ出版)、『世界遺産のひみつ』(イースト・プレス)など。