イエローストーン国立公園
バクテリアの種類や量によって虹のように色が変わるグランド・プリズマティック・スプリング

遺産DATA

地域 : 北米 保有国 : アメリカ合衆国 所在地 : Northwest corner of the State of Wyoming and relatively small adjacent areas of the States of Montana and Idaho 分類 : 自然遺産 登録年 : 1978年 危機遺産 : 1995年~2003年 登録基準 : (vii) (viii) (ix) (x) 遺産の面積 : 8,983.49㎢ 座標 : N44 27 38.016 W110 49 40

about

世界遺産が生まれるきっかけとなった国立公園

イエローストーン国立公園は、世界遺産条約が採択されるちょうど100年前の1872年に誕生しました。この100年というのは偶然ではありません。1971年2月、アメリカ合衆国大統領のリチャード・ニクソンが、「イエローストーン国立公園」設立100周年に当たる1972年に自然遺産と文化遺産を共に保護する国際的な体制を立ち上げると演説します。そこから様々な案が一気にまとめられ、世界遺産条約がユネスコ総会で採択されました。そして「イエローストーン国立公園」は、1978年に世界で最初に登録された世界遺産のひとつになりました。

マグマによる「ホットスポット」が生み出す多様な地形

アメリカ北西部にあるイエローストーン国立公園は、アメリカ合衆国最大規模の自然公園です。この一帯は、約210万年前頃の北米プレートの移動によって、地中の浅い場所に位置するマグマ溜りの上に位置するようになりました。そのため火山活動や断層運動、氷河作用などによって、カラフルな熱水の泉や定期的に熱水を噴き上げる間欠泉、湧き出した温泉に含まれる石灰が固まった石灰棚、深い谷や山脈、轟音と共に大地を削るイエローストーン川など、美しく多様な地形が作られました。

手付かずの自然と定期的な火災が生み出す多様性

イエローストーン国立公園の中で道路やインフラなどに開発されているのは2%ほどで、90%以上は手付かずの自然の状態で保護されています。そのため、バイソンやヘラジカ、プロングホーン、グリズリー、アメリカクロクマ、オオヤマネコなど、多くの野生動物が生息しています。また生態系バランスの保護のため、一度は公園内で絶滅したオオカミを1995年にカナダとモンタナ州から再導入しました。この地域では火災が起こった際、積極的には消火活動を行わず、多くの場合は自然の鎮火に任せます。定期的な火災とそこからの自然な回復が、森林や土壌、生物の多様性を豊かにしているそうです。

アクセス

日本からワイオミング州のジャクソン空港まで飛行機で約18時間。そこから車で約90分。

執筆協力者PROFILE

宮澤 光
宮澤 光
NPO法人世界遺産アカデミー主任研究員

北海道大学大学院博士後期課程を満期単位取得退学。仏グルノーブル第Ⅱ大学留学。2008年より現職。世界遺産に関するさまざまな書籍の編集・執筆・監修を手掛けるほか、「チコちゃんに叱られる!」(NHK)などの多くのメディア出演や、全国各地で100本を超す講演・講座を実施している。著書に『13歳からの世界遺産』(マイナビ出版)、『世界遺産のひみつ』(イースト・プレス)など。

Trivia

イエローストーンは最初の国立公園ではなかったかも!?

イエローストーン国立公園の約96%がワイオミング州、約3%がモンタナ州、約1%がアイダホ州にあります。これが世界で最初の国立公園誕生と関係しています。実は自然保護活動の先駆けとなったヨセミテは、イエローストーンよりも先の1864年に州立公園として保護されていました。これはヨセミテがカリフォルニア州にあったためです。ヨセミテを参考に整備されたイエローストーンは複数の州にまたがっていたため、州立公園とならず国立公園になりました。また国立では、アーカンソー州のホット・スプリングスが1832年に国立保護区になっており、ここが国立公園になっていたらイエローストーンは最初の国立公園ではなかったかもしれません。

イエローストーンは最初の国立公園ではなかったかも!?

Details

Grand Prismatic Spring
マグマ溜りの上に位置するイエローストーン国立公園では、様々な熱水現象が見られますが、そのひとつが温泉(ホット・スプリングス)です。大地に雨や雪として降った水が亀裂だらけの岩に染み込むと、マグマで熱せられた塩水とぶつかり200℃を超える過熱水になります。普通であれば蒸発してしまうのですが、上から水の重みと圧力で押さえつけられているため蒸発できません。しかし熱水は上にある重く冷たい水よりも密度が低いため、対流が生じて高温の熱水が地表に出てきます。イエローストーン国立公園にはこうした温泉が1万以上あります。
The Old Faithful Geyser
イエローストーン国立公園には、地球上の間欠泉の3分の2に相当する300以上の間欠泉があります。間欠泉とは、一定の周期で地中から熱水や水蒸気を噴き上げる温泉のことです。湧き出る温泉(ホット・スプリングス)と同じように、大地に雨や雪として降った水が岩の間から染み込み熱せられるのですが、温泉とは異なり地表近くで岩が狭くなっているために熱が逃げず地表近くまで高温のまま熱水が上がってきます。そこで水蒸気と狭い岩の圧力によって熱水が膨張し、一気に噴き上げるのです。
Mammoth Hot Springs
岩の裂け目から染み込んだ水は地中で熱せられると、数百万年前にこの一帯が海中だった頃に堆積した石灰岩の間を通って地表に流れ出ます。石灰岩の間を熱水が通る間に石灰岩(炭酸カルシウム)が溶け出して熱水と一緒に運ばれ、地表で二酸化炭素が放出されると炭酸カルシウムが堆積して、トラバーチンと呼ばれる白い石灰質の岩を作り上げます。このトラバーチンが段々と連なっているのが石灰棚です。
Yellowstone Lake and Yellowstone River
イエローストーン湖は、標高2,357mにある北米大陸最大で最高地にある淡水湖です。ウィスコンシン大学の研究によると、イエローストーン湖の水をすべて抜くと、イエローストーン国立公園の地上で見られるのと同じような間欠泉や温泉(ホット・スプリングス)、深い渓谷などが現れるそうです。イエローストーン湖には141を超える支流が流れ込んでいますが、流れ出る出口はイエローストーン川のみです。イエローストーン川は湖から出るとアッパー・フォールズとローワー・フォールズの2つの滝を通って大地を削り、深い渓谷を作り上げています。またイエローストーン川は、アメリカ合衆国本土48州の中で、ダムのない川としては最長の長さを誇ります。

遺産DATA

地域 : 北米
所在地 : Northwest corner of the State of Wyoming and relatively small adjacent areas of the States of Montana and Idaho
分類 : 自然遺産
登録年 : 1978年
危機遺産 : 1995年~2003年
登録基準 : (vii) (viii) (ix) (x)
遺産の面積 : 8,983.49㎢
座標 :N44 27 38.016 W110 49 40

アクセス

日本からワイオミング州のジャクソン空港まで飛行機で約18時間。そこから車で約90分。

執筆協力者PROFILE

宮澤 光
宮澤 光
NPO法人世界遺産アカデミー主任研究員

北海道大学大学院博士後期課程を満期単位取得退学。仏グルノーブル第Ⅱ大学留学。2008年より現職。世界遺産に関するさまざまな書籍の編集・執筆・監修を手掛けるほか、「チコちゃんに叱られる!」(NHK)などの多くのメディア出演や、全国各地で100本を超す講演・講座を実施している。著書に『13歳からの世界遺産』(マイナビ出版)、『世界遺産のひみつ』(イースト・プレス)など。