【世界遺産はどう決まる?】第6回|グローバル・ストラテジーは成功している?
アールフェルトのファーグス靴型工場(©Sina Ettmer/Adobe Stock)

第6回は、世界遺産リストの不均衡是正や信頼性の確保を目指すグローバル・ストラテジーを受けて、世界遺産登録はどのように変化したのかを見たいと思います。その内容をみていくと、うまくいっているところと、そうでもないところが見えてきます。

目次

グローバル研究で出された世界遺産リストの課題
進む「時代」や「テーマ」の不均衡是正
「地域」の点では課題が残る

グローバル研究で出された世界遺産リストの課題

イコモスが1994年10月に、世界遺産委員会に先立って出したグローバル研究の報告を見ると、世界遺産リストに載っている遺産は、文化遺産を当初は「記念碑的なもの」と考えていたこともあり、ヨーロッパ地域のものが多くを占め、歴史地区や歴史都市、宗教建築が多く、中でもキリスト教関連のものが他の宗教に比べて多いとの指摘があります。

また建築は支配者の文化を代表するものが多い一方、先史時代や20世紀の遺産が少なく、人々の豊かさや複雑さを示す伝統的な文化や、そうした文化や社会と交流する周辺環境に関するものはほとんどなかったと報告されています。

そして、文化遺産は個々の独立した「記念碑」と考えるのではなく、空間的な視点から社会的な構造や生活様式、知識体系、過去から現在への文化の表現全体などの、文脈の中で考えるべきとしました。

つまり、グローバル研究では、遺産の分野や地域間の不均衡を是正するのと同時に、遺産ごとのつながりや無形の要素も価値に入れた人類学的なアプローチにも踏み込んで考えるべきだと示されたのです。

進む「時代」や「テーマ」の不均衡是正

1994年11月に始まった世界遺産委員会で「世界遺産リストにおける不均衡の是正及び代表性、信用性の確保のためのグローバル・ストラテジー(グローバル・ストラテジー)」が採択され、それに基づいて「地域」や「時代」、「テーマ」の不均衡是正が進められてきました。

ドイツの「アールフェルトのファーグス靴型工場」や、ブラジルの「ホベルト・ブールリ・マルクスによる庭園」、英国の「ゴーハムの洞窟群」など、世界遺産に登録されるまであまり耳にすることがない遺産が登録されているのは、この「グローバル・ストラテジー」に沿ったものです。

「アールフェルトのファーグス靴型工場」や「ホベルト・ブールリ・マルクスの庭園」はこれまで遺産数が少なかった「テーマ」の不均衡を是正するものだし、先史時代の「ゴーハムの洞窟群」は「時代」の不均衡を是正するもので、その点では「グローバル・ストラテジー」は確実に成果を上げていると言えます。

「地域」の点では課題が残る

しかし、「地域」の不均衡の是正という観点で言うと、結果が出ているとは言えない状況にあります。

例えば、1994年の段階で全遺産に占める「欧米」の遺産の割合は46.9%でしたが、2025年の世界遺産委員会が終わった時点ではそれが46.4%でほとんど変わっていません。同じように「アフリカ」は1994年で8.6%だったのが2025年の9.0%で微増、「ラテンアメリカ・カリブ海地域」は12.8%が12.3%、「アラブ諸国」は7.8%が7.9%でほとんど変化なし、「アジア・太平洋」は23.9%が24.5%とこちらも微増ですが、全体の構成バランスをみるとほとんど変化していないと言えます。

「アジア・太平洋」が少しながら増えているのは、1993年から登録が開始された日本や、今や世界第2位の遺産保有国である中国の存在が大きいと思います。

≪前回の記事はこちら

≫第7回「暫定リストから取り組む「地域」バランス」に続く

執筆者PROFILE

NPO法人世界遺産アカデミー主任研究員

北海道大学大学院博士後期課程を満期単位取得退学。仏グルノーブル第Ⅱ大学留学。2008年より現職。世界遺産に関するさまざまな書籍の編集・執筆・監修を手掛けるほか、「チコちゃんに叱られる!」(NHK)などの多くのメディア出演や、全国各地で100本を超す講演・講座を実施している。著書に『13歳からの世界遺産』(マイナビ出版)、『世界遺産のひみつ』(イースト・プレス)など。
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