【世界遺産はどう決まる?】第9回|暫定リスト記載から世界遺産登録までの流れ②
カナダの専門家が現地調査を行った富士山(©Junichi NSMT/Adobe Stock)

第9回も引き続き、世界遺産登録までの流れです。プレリミナリー・アセスメントを受けた遺産は、いよいよ推薦書作成の準備が始まります。

目次

推薦書に大きく影響するプレリミナリー・アセスメントの報告書
先住民を含む地域コミュニティとの連携も重視
現地調査を行う専門家とは(ICOMOSの場合)
現地調査から評価書作成まで(ICOMOSの場合)

推薦書に大きく影響するプレリミナリー・アセスメントの報告書

プレリミナリー・アセスメントの報告書を受け取ると、そこから12カ月後以降に推薦書の提出が可能になります。プレリミナリー・アセスメントで「世界遺産登録は難しいだろう」といった評価結果が出たとしても推薦書を提出することは可能ですが、そのままでは本当に登録は難しいので、プレリミナリー・アセスメントの結果は推薦書の内容に大きく影響を与えることになります。

ここで「潜在的なOUV」を根本から考え直す必要が出てきた場合は、推薦書の提出はさらに先になることが考えられます。プレリミナリー・アセスメントの報告書の有効期限は5年間なので、推薦書の提出にそれ以上の時間がかかる場合は、再度プレリミナリー・アセスメントを受ける必要があります。

日本で初めてプレリミナリー・アセスメントを受けた「彦根城」は、2024年10月に受け取った報告書を基に文化審議会で検討が行われ、単独で登録するためにはより説明を充実させる必要があるとして、2026年の推薦が見送られました。

先住民を含む地域コミュニティとの連携も重視

プレリミナリー・アセスメントを受け推薦書提出に進む遺産は、暫定リストに記載する際に提出した書類とプレリミナリー・アセスメントの報告書などを基に、推薦書の作成を行います。

基本的には暫定リストの時と同じですが、遺産の名称、遺産そのもの(プロパティ)とその周辺を保護するバッファー・ゾーンの範囲が明確に示された地図、遺産の説明と歴史的背景や変遷、「潜在的なOUV」の説明と当てはまる登録基準、真正性と完全性の証明、他の類似した遺産との比較分析、保全に影響を与える脅威、保全管理計画、モニタリングの指標などを推薦書に記載します。また推薦書にはプレリミナリー・アセスメントの報告書が添付されます。

またこの推薦書を作成する段階で、先住民を含む地域コミュニティや、民間組織、政府、自治体などと連携を図ることが、登録後の保護管理の観点からも重要です。そのため、公聴会などを開いて合意を得たことを推薦書に示すことも推奨されています。

現地調査を行う専門家とは(ICOMOSの場合)

2月1日の期限までに世界遺産センターに提出された推薦書は、内容が完全であると判断されると、専門評価のために諮問機関(ICOMOSかIUCN)に送られます。推薦書を受け取った諮問機関は、推薦書を確認した後、現地調査を行う専門家を選びます。

ここからは文化遺産のICOMOSと自然遺産のIUCNで少し異なっています。

ICOMOSの場合は、推薦された遺産の「顕著な普遍的価値」を判断する学識者の専門家グループと、保全や真正性に関する助言を行う実務経験者の専門家グループの2つを選びます。この実務経験者のグループの中から選ばれた専門家が、実際に現地に赴いて評価を行います。

この現地調査を行う専門家は、基本的には推薦された遺産が属する地域から選ばれますが、調査対象の遺産に関して高度な専門的知識をもっている必要はないそうです。また推薦された遺産が、推薦されることが少ない分野でICOMOS内に専門家がいない場合は、ICOMOSのメンバーではない専門家が加わることもあります。

例えば『富岡製糸場と絹産業遺産群』の現地調査に訪れた専門家の趙豊さんは、ICOMOSのメンバーではなく中国国立シルク博物館の館長の方でした。また『富士山-信仰の対象と芸術の源泉』の時はカナダICOMOS国内委員会のリン・ディステファノさんでしたが、彼女は香港大学で研究を行っており、地域としては「西欧・北米」の方ですが、日本の遺産の価値を評価できると判断されたのだと思います。

現地調査から評価書作成まで(ICOMOSの場合)

現地調査では、ICOMOSの専門家は現地の遺産の管理者とは対等な立場で、評価基準や評価方法などを事前に説明し理解を得た上で、管理計画や保全方法、遺産の範囲設定やモニタリングの指標の適切さなどを確認します。この現地調査では、メディアの注目を浴びないように秘密裏に行われることも求められています。

こうして2つのグループでそれぞれ協議を行い、文化的評価と現地調査の報告書がまとまると、パリのICOMOS事務局がこの2つの報告書を基に、勧告を含む評価案をまとめます。この評価案には、推薦された遺産の簡単な説明と歴史、法的な保護や管理、保全状況の概要、それに対するICOMOSのコメントと世界遺産委員会への4段階の勧告案が含まれています。

その評価案に基づきICOMOSの世界遺産パネル(専門家委員会)でICOMOSの担当者がそれぞれの推薦遺産のプレゼンテーションを行います。そして推薦書と合わせて内容を審議し、修正したものを評価書として世界遺産委員会に提出します。

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(次回に続く)

執筆者PROFILE

NPO法人世界遺産アカデミー主任研究員

北海道大学大学院博士後期課程を満期単位取得退学。仏グルノーブル第Ⅱ大学留学。2008年より現職。世界遺産に関するさまざまな書籍の編集・執筆・監修を手掛けるほか、「チコちゃんに叱られる!」(NHK)などの多くのメディア出演や、全国各地で100本を超す講演・講座を実施している。著書に『13歳からの世界遺産』(マイナビ出版)、『世界遺産のひみつ』(イースト・プレス)など。
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