第10回は、自然遺産の諮問機関の評価から世界遺産委員会での決議までです。
推薦内容の専門評価(IUCNの場合)
2月1日までに世界遺産センターに提出された自然遺産の推薦書は、内容が完全であると判断されると、専門評価のために諮問機関のIUCNに送られます。
IUCNでは、推薦書を検討するのに必要なデータの収集を行い、他の類似した遺産との比較研究をします。データ収集や比較研究では、IUCNがユネスコのMAB計画(人間と生物圏計画)のために作成した陸域の生物地理区分(Udvardy)や、WWF(世界自然保護基金)のエコリージョン(生物地理学的地域)、コンサベーション・インターナショナルの生物多様性ホットスポット、バードライフ・インターナショナルの固有鳥類生息域、IUCN/WWFの植物多様性センターなどのレビューや分類などを活用します。
それと同時に、IUCNの専門委員会であるWCPA(世界保護地域委員会)や、その他のIUCNメンバー、地域で活動する学術ネットワーク、NGO、関連分野の専門家などに推薦書を送り、内容の妥当性や論理性などの査読を行ってもらいます。毎年、150名近くの査読者が各国からの推薦書を検証します。
そして、IUCNのメンバーと外部の専門家を含む評価チームが現地調査を行います。ここではICOMOSの場合と同じく、国や自治体の関係者や地域コミュニティ、NGOなどと協議を行い、推薦内容を現地で確認します。
現地調査から評価書作成まで(IUCNの場合)
現地調査が終わると、推薦書と現地調査の報告書、査読者のコメント、データシート、比較研究結果などを基に、12月にスイスのグランにあるIUCN本部にて世界遺産パネル(専門家委員会)が開催されて、各推薦書についての審議が行われます。
ここでの審議を基に、IUCNの技術的助言や勧告が評価書としてまとめられ、世界遺産センターに送られます。12月の審議でまとまらない場合は、3月に対面もしくはオンラインでの会議が行われることもあります。
IUCNの場合は、推薦国との対話の機会を多く持つようにしており、少なくとも3回は追加情報を推薦国に求めることが可能です。1回目は現地調査の直前で、推薦国の担当者に検討すべき事項や質問項目などを送ります。2回目は現地調査の後で、現地調査の検討を基に世界遺産パネルで話し合うための追加情報を求めることができます。3回目は世界遺産パネルの後で、評価書をまとめる上で必要な未回答の質問や不明な情報がある場合に、補足情報を求めることができます。
このように、ICOMOSとIUCNは異なる手法で評価書を作成しますが、複合遺産の場合は、ICOMOSとIUCNが共同でミッションを行い、それぞれが文化遺産と自然遺産の側面を評価します。また文化的景観の場合は、ICOMOSがIUCNに専門的な意見を求めながら評価書を作成します。
世界遺産委員会で決議
世界遺産センターでは、諮問機関からの評価書を受け取ると、その内容を世界遺産委員会開催の6週間前までに世界遺産委員会と該当する遺産の推薦国に伝えます。
推薦国は、評価書の内容に事実関係の誤りがあった場合は、世界遺産委員会の14日前までに議長にその内容を指摘、訂正する文書を提出することができます。その文書は、関係諮問機関のコメントと共に付属資料として議題に添付され、世界遺産委員会での審議の際に検討されます。
また、評価書の内容によっては、推薦国は推薦書を取り下げることも可能です。2013年4月にICOMOSから「不登録」勧告が出された「武家の古都・鎌倉」は、世界遺産委員会直前の6月に推薦書の取り下げを行いました。
世界遺産委員会では、21の委員国が諮問機関(ICOMOS、IUCN、ICCROM)などの報告を受けながら審議を行い、「登録」「情報照会」「登録延期」「不登録」の4段階で決議します。
世界遺産委員会が終わったところで、世界遺産センターは登録基準を含む顕著な普遍的価値の言明と遺産範囲を示した地図を推薦国と遺産管理者に連絡します。それと同時に、新しく登録された遺産を含む世界遺産リストを更新し、世界遺産センターの公式HP内に掲載します。そして、世界遺産委員会が閉会した月末(もしくは翌月末)までに決議内容の全てを推薦国に報告します。
こうして、暫定リスト記載から4年以上の歳月をかけて、世界遺産は登録されます。
(次回に続く)
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『世界遺産はどう決まる? 今こそ知りたい世界遺産のしくみ!』(マイナビ出版)
●発売日(予定)
2026年5月29日
●著者
宮澤光(NPO法人世界遺産アカデミー主任研究員)
宮脇佳子(NPO法人世界遺産アカデミー研究員)
「世界遺産はどう決まるの?」という疑問に答える一冊です。世界遺産登録の背景や世界遺産が決まる現場である世界遺産委員会の解説ほか、2025年に開催された第47回世界遺産委員会の報告や、新規登録遺産の審議内容に加えて、世界遺産登録に実際に関わっていらっしゃるUNESCO日本政府代表部 特命全権大使 加納雄大氏と、文化庁文化資源活用課 文化遺産国際協力室 鈴木地平氏のインタビューも掲載。世界遺産の最新の現場がわかる一冊になっています。
執筆者PROFILE
北海道大学大学院博士後期課程を満期単位取得退学。仏グルノーブル第Ⅱ大学留学。2008年より現職。世界遺産に関するさまざまな書籍の編集・執筆・監修を手掛けるほか、「チコちゃんに叱られる!」(NHK)などの多くのメディア出演や、全国各地で100本を超す講演・講座を実施している。著書に『13歳からの世界遺産』(マイナビ出版)、『世界遺産のひみつ』(イースト・プレス)など。
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