第6回では、世界遺産リストの不均衡是正の取り組みが、「地域」の観点では他に比べてあまり成果を挙げられていないと書きましたが、世界遺産委員会はそれを黙って見てきたわけではありません。今回は、世界遺産委員会が取り組んできた「地域」の不均衡の解消の取り組みを見てみたいと思います。
暫定リストの再検討
2000年代に入るころから、世界遺産リストの不均衡の中でも「地域」のアンバランス解消に力を入れていこうという流れが出てきます。
そこで全ての締約国は自分の国の暫定リストを、記載されている遺産の分野やテーマ、地域などの観点から再検討することが求められました。また、暫定リストに記載される遺産は、まだ世界遺産委員会で「顕著な普遍的価値(OUV)」が認められていないため、「潜在的なOUV」をもっていると考えられますが、その「潜在的なOUV」が推薦後に「OUV」として認められ得るものであるかも、見直しの対象となりました。
これは、世界遺産リストの不均衡を是正するためには、まずはその前の段階の各国の暫定リストの時点で、バランスの取れたものになっているべきであるという考えです。そのためには、各国の世界遺産に関わる能力強化(Capacity-building)や、そのための二国間/多国間の協力や技術提供を通した推薦書作成のためのノウハウの共有などが重要となります。
これが進めば、推薦書の内容が不十分であるために世界遺産に登録されない、ということが減ってきて、これまで推薦書作成のノウハウがなく世界遺産の登録数が少なかった国にも世界遺産が増えることが期待されています。
暫定リストをもたない国を減らす取り組み
一方で、各国の暫定リストの中のバランスだけでは、世界全体の「地域」バランスの解消にはなりません。やはり、世界遺産が1件もない国や多くもたない国に世界遺産が増える必要があります。
その対策として各国からの推薦数の上限設定や世界遺産委員会での審議順のルール化なども行っていますが、そもそも推薦につながる暫定リストを整えることが重要です。
その点に関し、現在では2008年の世界遺産委員会で概念が示されたアップストリーム・プロセスで、ICOMOSやIUCN、ICCROMといった諮問機関や世界遺産センターが、各国の暫定リストの作成や整備に協力していく体制が整えられています。
196カ国の締約国のうち、190の国が暫定リストを提出しており、今のところ世界遺産を1件ももたない国は26カ国です。つまり暫定リストを提出して世界遺産がない国が20カ国、暫定リスト未提出で世界遺産がない国が6カ国ということです。暫定リストに記載されない限り、世界遺産に推薦することはできないので、信頼に値する暫定リストの作成と見直しが、世界遺産リストの「地域」の不均衡解消につながるという考え方に基づいて進められています。
日本の暫定リストの現状
現在の日本の暫定リストは、「古都鎌倉の寺院・神社ほか」、「彦根城」、「飛鳥・藤原の宮都」、「平泉-仏国土(浄土)を表す建築・庭園及び考古学的遺跡群-(範囲拡大)」の4件が記載されています。「飛鳥・藤原の宮都」は今年の夏にも世界遺産になる可能性があるほか、「古都鎌倉の寺院・神社ほか」は推薦に向けた活動が現在休止中のため、今年中に掲載遺産が実質2件になってしまう見通しです。
日本では文化庁の文化審議会などを中心に、これまでも定期的に暫定リストの見直しが進められてきました。「世界遺産の暫定リスト追加のための審査基準」に基づいた検討のほか、候補の遺産を「日本の暫定リストに含まれない分野の遺産でOUVも証明可能なもの」や、「暫定リストにはない分野だけど、現状では世界遺産委員会でOUVが認められにくいもの」などにカテゴリー分けして、分科会を立ち上げ検討を行ってきています。
世界遺産条約を運用する「世界遺産条約履行のための作業指針(作業指針)」では、10年ごとに暫定リストの見直しと再提出が望ましいとされています。日本が前回暫定リストを提出したのは、2016年に「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」を追加した時なので、そこから今年で10年になります。そろそろ新しい遺産が暫定リストに記載されることになるかもしれません。
執筆者PROFILE
北海道大学大学院博士後期課程を満期単位取得退学。仏グルノーブル第Ⅱ大学留学。2008年より現職。世界遺産に関するさまざまな書籍の編集・執筆・監修を手掛けるほか、「チコちゃんに叱られる!」(NHK)などの多くのメディア出演や、全国各地で100本を超す講演・講座を実施している。著書に『13歳からの世界遺産』(マイナビ出版)、『世界遺産のひみつ』(イースト・プレス)など。
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