アランフエス王宮
白石とレンガを交互に用いた、ハプスブルク家の古典主義建築の特徴を備える。18世紀の増築で現在の「U」字形になった

見どころDATA

アランフエスの歴史―騎士団の邸宅から王宮へ

「アランフエス王宮」は、マドリードの南約30km、タホ川とハラマ川が合流する平野部に位置し、総面積1.1㎢もの広大な庭園に囲まれています。15世紀末に終結したレコンキスタ(国土回復運動)以降、アランフエスはサンティアゴ騎士団の所有地であり、その総長は現在の王宮がある場所に邸宅を構えていました。イサベル1世の時代に、総長の地位が君主の地位に統合されたことで、アランフエスの領地は王室資産の一部となりました。1561年、スペイン国王フェリペ2世は、父である神聖ローマ帝国皇帝カール5世(スペイン国王カルロス1世)の計画を引き継ぎ、アランフエスにあった古い邸宅の建て替えを命じました。建築家フアン・バウティスタ・デ・トレドは、まず庭園や農地を区切る並木道を設計し、アランフエスをイタリア風の邸宅に改築します。これが現在の王宮の前身となり、フェリペ2世と王妃のお気に入りの夏の離宮でした。さらにトレドによって礼拝堂の建設が始まり、マドリードのエル・エスコリアール修道院を手掛けた建築家フアン・デ・エレーラの手によって完成されます。数年後には、建築家フアン・デ・ミンハレスの指揮のもと、王宮本体の建設が始まりました。1598年、フェリペ2世が亡くなる時点では、礼拝堂を持つ南塔と、南側および西側正面(ファサード)の大部分が完成しています。

工事中断と焼失を経て、拡張された王宮

しかしその後しばらくの間、王宮の建設工事は中断されることになります。転機が訪れたのは、1700年にスペイン・ブルボン朝の国王フェリペ5世が即位したときでした。彼は当初の計画に従い、測量士ペドロ・カロ・イドロゴに工事の再開を依頼します。1715年に再開された工事により、北塔はかつてフアン・デ・ミンハレスが手がけた南塔と全く同じ構造で建てられました。さらに西側正面も完成し、ヴェルサイユ宮殿を模したとされる現在の王宮の主要な外観が形成されています。1748年、アランフエス王宮の建物は火災に見舞われ、それまでに建てられていた建物の一部が焼失してしまいます。時の国王フェルナンド6世は、イタリア出身の建築家サンティアゴ・ボナビアに再建を依頼しました。ボナビアによる正面部分の修復では、アーチ状の柱廊が新たに設置され、王宮の発展に深く関わった歴代国王フェリペ2世、フェリペ5世、フェルナンド6世の3体の像が配されました。その後、18世紀後半のカルロス3世の時代になると、建築家フランシスコ・サバティーニが西側の翼棟を設計し、王宮はさらに拡張されました。

美術品や時代家具で飾られた数多くの部屋

今日のアランフエス王宮は、数世紀にわたる長い建設過程と、多くの国王や建築家、芸術家たちの理想が結実した姿です。なかでも、カルロス3世は内装に力を入れ、スペイン・ロココ美術の傑作とされる白い陶磁器タイルで覆われた「陶磁器の間」を造営しました。この美しい部屋は、現在も当時のままの姿をとどめています。19世紀に入ると、王宮はさらなる変貌を遂げます。女王イサベル2世と夫のフランシスコ・デ・アシースによって、「アラブの間」をはじめとする異国情緒やオリエンタリズム(東洋趣味)への関心を示す内装へと意匠変更が行われたのです。これらの部屋には、1846年に中国皇帝からイザベル2世に贈られた200点の絵画が飾られています。こうして築かれたアランフエス王宮の内装は、ルネサンスから新古典主義にいたるまで、多くの様式が調和し、均整のとれた美しい空間を生み出しています。

文化的景観に思いをめぐらせて書かれた名曲

アランフエスには、入り組んだ水路によって碁盤目状に区画された街並みをはじめ、タホ川の水を引き込んだ「島の庭園」、東洋風の東屋が残る「王子の庭園」、そして世界中から集められた植物が栽培される農園などが見られます。これらは、豊かな自然と人々の暮らし、農村と都市、整然とした並木道と壮麗な建築物群など、多様な要素が美しく調和した文化的景観と作り出しています。盲目の作曲家ホアキン・ロドリーゴの『アランフエス協奏曲』は、このアランフエス王宮とそこに広がる美しい庭園に思いをめぐらせて書かれた名曲です。

執筆協力者PROFILE

高等学校教諭/NPO法人世界遺産アカデミー認定講師/世界遺産検定マイスター

兵庫県出身。中学3年生の夏休みの台湾ひとり旅をきっかけに、旅行先の歴史・景色・料理など、世界を知る魅力のとりこになる。「世界遺産を学習して見て感動して」をモットーに活動。全国通訳案内士の資格も有し、日本の魅力も発信している。
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兵庫県出身。中学3年生の夏休みの台湾ひとり旅をきっかけに、旅行先の歴史・景色・料理など、世界を知る魅力のとりこになる。「世界遺産を学習して見て感動して」をモットーに活動。全国通訳案内士の資格も有し、日本の魅力も発信している。
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