What is World Heritage

世界遺産とは

世界遺産とは
世界遺産条約が生まれるきっかけとなった「ヌビアの遺跡群」の「アブ・シンベル神殿」(エジプト・アラブ共和国/1979年登録)(ⒸMauro_Repossini/iStock)

世界遺産が持つ顕著な普遍的価値

世界遺産は全て「顕著な普遍的価値(Outstanding Universal Value)」を持っているとされます。この顕著な普遍的価値とは、どの国や地域の人でも、どの時代や世代の人でも、どのような信仰や価値観を持っている人でも、同じように素晴らしいと感じる価値のことです。まさに人類共通の価値と言えます。

世界遺産になるためには、この「顕著な普遍的価値」を歴史や文化、自然科学などの観点から証明し、それを保護するための管理計画や法体制などが整備されている必要があります。世界遺産の登録を判断する世界遺産委員会では、そうした点を総合的に判断して登録の可否を決めます。

一方で、「顕著な普遍的価値」を保護するための体制など全てで世界遺産に登録するかどうか判断されるため、そこで世界遺産に登録されなかったからと言って、その遺産に「顕著な普遍的価値」がないということを意味するわけではありません。

世界遺産の分類

世界遺産には3つの分類があります。人類が生み出した素晴らしい建造物や記念碑、遺跡、文化的景観などの「文化遺産」と、地球の歴史や動植物の進化を伝える自然環境、美しく類まれな自然景観などの「自然遺産」、文化遺産と自然遺産の両方の価値を兼ね備える「複合遺産」です。

この3つの分類で重要な点は、どれも土地や建物などの「不動産」であるということです。どんなに芸術的価値が高い素晴らしい作品であっても動かすことができる「動産」は文化遺産に登録されないですし、珍しく貴重な生物もそれ自体は自然遺産には登録されません。

文化遺産

フィレンツェの歴史地区
フィレンツェの歴史地区(イタリア共和国/1982年登録)(Ⓒrh2010/Adobe Stock)

記念碑的な意味を持つ建造物や、歴史的・芸術的価値を持つ建造物群、街並み、洞窟住居、考古遺跡などの他に、人類が自然に手を加えたり影響を受けたりしながら作り上げた文化的景観や、人類の歴史を証明する人類化石の出土地帯などが登録されます。世界遺産に登録されている遺産の約8割が文化遺産です。

自然遺産

屋久島
屋久島(日本国/1993年登録)(ⒸAkatsuking/Adobe Stock)

人の手が加えられていない「手つかずの自然」が生み出す美しい景観や、地球の歴史を示す地質学的・地形学的な環境、固有の生物や生態系が見られる地域特有の景観などが登録されます。また地球の歴史を証明するものとして、恐竜や動物、植物の化石の出土地帯も自然遺産に含まれます。

複合遺産

メテオラの修道院群
メテオラの修道院群(ギリシャ共和国/1988年登録)(ⒸACHILLEFS/Adobe Stock)

文化遺産の価値と自然遺産の価値の両方を兼ね備えている遺産が登録されます。世界遺産条約の中には定義されていませんが、世界遺産条約の運用を定める「作業指針」の中に定義されています。

危機遺産

エルサレムの旧市街とその城壁群
エルサレムの旧市街とその城壁群(エルサレム(ヨルダン・ハシェミット王国による申請遺産)/ 1981年登録)(Ⓒkirill4mula/iStock)

世界遺産の分類ではありませんが、遺産の持つ「顕著な普遍的価値」が危機に直面している場合、「危機遺産リスト」に記載されて、国際的な協力の下で危機を取り除く努力がなされます。危機遺産リストに記載された遺産は、専門機関のアドバイスなどを受けながら改善に向けた対策を行い、毎年の世界遺産委員会に状況を報告します。そこで状況が改善され危機が取り除かれる見通しが立ったと判断された場合、危機遺産リストから脱することができます。

一方で、「顕著な普遍的価値」が損なわれてしまった、もしくは「顕著な普遍的価値」を守っていくことができないと判断された場合は、世界遺産リストから削除されてしまうこともあります。これまでにオマーン国の「アラビアオリックスの保護地区」と、ドイツ連邦共和国の「ドレスデン・エルベ渓谷」、英国の「リヴァプール海商都市」が、世界遺産リストから削除されました。また、「バグラティ大聖堂とゲラティ修道院」」のように、世界遺産を構成する「バグラティ大聖堂」だけが削除され、『ゲラティ修道院』だけが世界遺産に残り登録されている例もあります。

世界で最初の世界遺産

世界で最初の世界遺産には、1978年にアメリカ合衆国の『イエローストーン国立公園』やエクアドル共和国の『ガラパゴス諸島』など12件が登録されました。この12件は7ヵ国に点在する遺産でしたが、現在多くの世界遺産を持つイタリア共和国やフランス共和国、中華人民共和国などは含まれていません。また、現在は世界遺産を代表するような『タージ・マハル』やギザのピラミッドがある『メンフィスのピラミッド地帯』なども含まれていません。

  1. アーヘンの大聖堂(ドイツ連邦共和国)
  2. クラクフの歴史地区(ポーランド共和国)
  3. ヴィエリチカとボフニャの王立岩塩坑(ポーランド共和国)
  4. シミエン国立公園エチオピア連邦民主共和国
  5. ラリベラの岩の聖堂群エチオピア連邦民主共和国
  6. ゴレ島セネガル共和国
  7. メサ・ヴェルデ国立公園アメリカ合衆国
  8. イエローストーン国立公園アメリカ合衆国
  9. ランス・オー・メドー国立歴史公園(カナダ)
  10. ナハニ国立公園(カナダ)
  11. ガラパゴス諸島エクアドル共和国
  12. キトの市街エクアドル共和国

※遺産の登録順ではありません。

世界遺産条約を採択したユネスコ

ユネスコ本部
フランス・パリにあるユネスコ本部

ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)は、1946年に設立された国連の専門機関です。教育や科学、文化などの活動を通して、国家や民族、人種、性別、宗教などの違いを超えた平和な世界の実現を目指しています。

フランスのパリに本部が置かれ、2年に一度、すべてのユネスコ加盟国が参加するユネスコ総会が開催されます。1999年からは、アジア人として初めて、日本の松浦晃一郎氏が第8代ユネスコ事務局長を務めました。

第二次世界大戦後に、二度とひどい戦争を繰り返さぬよう平和のための国際機関を設立することで人々が合意し、「ユネスコ憲章」が採択されました。ユネスコ憲章の前文には次のような一文があり、ユネスコの平和理念をよく表しています。

戦争は人の心の中に生まれるものだから、人の心のなかにこそ、平和のとりでを築かなければならない。

ユネスコは、この平和理念に基づき、世界中のさまざまな文化や民族同士の相互理解を深める活動を行っており、世界遺産もその1つとして、戦争のない平和な世界を目指す活動に貢献しています。

日本と世界遺産

日本が世界遺産条約を批准したのは、ユネスコで世界遺産条約が採択されてから20年後の1992年のことです。翌1993年には日本で最初の世界遺産として『法隆寺地域の仏教建造物群』、『姫路城』、『白神山地』、『屋久島』の4件が登録されました。

世界遺産条約への参加は遅かったですが、世界遺産条約を採択した時の議長は日本の萩原徹氏が務め、現在も遺産の保護などの積極的に参加するなど、世界遺産活動とは深い関係があります。