いざフランスへ!/パリまで世界遺産委員会に来ています【第1回】
UNESCO本部最寄りのメトロSégur駅

2025年、世界遺産委員会に参加するために初夏のパリで過ごした2週間と数日は、1日のほとんどの時間を会議場か宿泊先の室内で過ごしたけれど、新しい体験の刺激とフランス語の響きや街並みの懐かしさ、そして疲労や緊張と退屈の混ざり合った、海外で過ごす日々の要素が短い期間にぎゅっと濃縮された日々だった。

目次

ばたばたの出国準備
大急ぎの荷造り
動かない電車とかっ飛ばすタクシー

ばたばたの出国準備

7月初旬に開催される世界遺産委員会にオブザーバー資格で参加することが決まり、往復の飛行機だけ急いで予約したのが4月中旬のこと。その頃からさまざまな業務が重なって本当に目が回りそうなほどの忙しさだったこともあり、宿を予約できたのは出国の9日前のことだった。

ぎりぎりになってしまった一番の理由は、ホテル代が高すぎていつもため息とともにホテル探しを途中で放り投げてしまっていたことだけど、それでもあまり焦っていなかったのは、基本的に楽観的なだけじゃなく行き先がフランスのパリだったから。パリには半年前にも行ったばかりだったし、学生時代に少しの間フランスに住んでいたこともあるので、緊張感がなかった。

今回の第47回世界遺産委員会の会場は、パリにあるユネスコ本部。委員国の持ち回りで毎年開催される世界遺産委員会は、普通は前年の本会議の最終日に翌年の会場が決議され発表される。2025年の第47回世界遺産委員会は、2024年の世界遺産委員会の時にブルガリアのソフィアで開催されることが決まっていた。

しかし、ブルガリアで2024年10月の選挙を受けた新政権が2025年1月に発足し、3月にはその新政権が国際会議の受け入れ準備が間に合わないとして世界遺産委員会の開催を断念したため、急遽ユネスコ本部での開催に変更された。世界遺産委員会レヴェルの国際会議となると1,000人以上の参加者が訪れるため、会場や宿泊施設などの受け入れ態勢を整えるのが大変なのだ。ソフィアはもちろんブルガリアにも行ったことがないのでこの変更は残念だったけど、変更先がパリなら喜んで受け入れられる。でもソフィアで開催だったら忙しくても眠くても、もっとしっかり準備をしていたと思う。

大急ぎの荷造り

くたくたの下着とシャツを数着入れて、と

出国の翌日が新刊書籍の校了日だったこともあり、出国日も仕事の定時まで原稿の最終確認やら先延ばしにしていた他の仕事をしていて、スーツケースに荷物を詰めたのは18時からの1時間ほど。もちろん職場への行き帰りの電車内などで、何を持って行くか考えていたので、機械的にぽんぽん詰め込んでいく感じ。

今回は、パリに滞在する2週間はほとんど一日中会議場にいるから、服は最小限にして毎日洗濯し、下着や靴下はくたくたのものを持って行って最終日に捨ててくることにする。夏場は衣服がかさばらないこともあって、機内持ち込みサイズのスーツケースでもスカスカの状態で収まる。くたくたの下着は荷物の量には関係ないけど、存在感はかなり薄い。

はるか昔の大学生の時に、ユース・オーケストラのメンバーに混ぜてもらいアメリカに行ったことがある。その時の最初のフライトで、預けたスーツケースの角がべっこりと凹んで出てきて、そこから約1カ月間のツアー中ずっと痛々しい姿をしていたのがあまりにショックだったので、それ以来、海外旅行でも荷物は全て機内持ち込みにしている。

現金は持って行かないし、クレジットカードとパスポート、スマホ、PC、そして充電器さえあればなんとかなるくらいの軽い気持ちだと、機内持ち込みサイズのスーツケースに荷物を入れるのはかなり捗る。そこに、シャンプーや日焼け止め、歯ブラシなどは普段使っているものを、そのまま何も考えずに放り込んだのがいけなかった。

動かない電車とかっ飛ばすタクシー

おりゃー!間に合うかな

余裕をもって家を出たはずが、乗った電車にトラブルがあり、かなり早い段階で1時間以上も車内に閉じ込められてしまう。相談にのってもらった同僚の勧めで急いでインストールしたタクシーアプリは機能せず、ようやく降ろされた駅前では降り出した雨の中で文字通り右往左往したけど、偶然目の前で客を降ろしたタクシーに飛び乗ることができた。

事情を話すと、温厚そうな運転手のおじさんは「大変でしたね!大丈夫ですよ。」と振り返って微笑み、リュック・ベッソンの映画に出てくるタクシー運転手のようなスピードで高速を飛ばして、僕をあっという間に空港に届けてくれた。「大変でしたね!大丈夫ですよ。」って、なんという安心させる言葉なんでしょう! 後部座席でぐったりしながら高速道路でびゅんびゅんと追い抜かれていく車のテールランプをぼんやり見ていたら、きつめのクーラーが雨で濡れた僕の体をどんどん冷やしていった。タクシーを降りたら、メガネが真っ白に曇った。

(次回に続く)

写真・イラスト©宮澤光

執筆者PROFILE

NPO法人世界遺産アカデミー主任研究員

北海道大学大学院博士後期課程を満期単位取得退学。仏グルノーブル第Ⅱ大学留学。2008年より現職。世界遺産に関するさまざまな書籍の編集・執筆・監修を手掛けるほか、「チコちゃんに叱られる!」(NHK)などの多くのメディア出演や、全国各地で100本を超す講演・講座を実施している。著書に『13歳からの世界遺産』(マイナビ出版)、『世界遺産のひみつ』(イースト・プレス)など。
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