ギエット邸
正面のファサードと裏庭側のファサードは、上下反転させたデザインになっている(©Ad Meskens/Wikimedia Commons/CC BY-SA 4.0

「住むための機械」という考えを高い完成度で表現した住宅

ベルギーのアントワープにあるギエット邸は、1926年に設計された画家ルネ・ギエットの住宅兼アトリエで、「レ・ププリエ(ポプラの家)」と呼ばれています。建築家ル・コルビュジエが海外で初めて受注した建築作品で、彼が提唱した住宅モデル「メゾン・シトロアン」を実際の住宅に表現した数少ない例のひとつです。「メゾン・シトロアン」は、建築部材の規格化と、「住宅は住むための機械である」という考えにもとづき、生活に必要な機能を建築に取り入れることを目指した住宅モデルです。一方、敷地が細長い形状だったこと、都市計画の規制があったこと、ギエット自身が1階で生活し庭へ直接出られる住まいを希望したことから、ル・コルビュジエ建築の特徴であるピロティは採用されませんでした。そのため、道路側にキッチンやトイレを配置した、独特の3階建て住宅になっています。

箱型の住宅を歩きながら空間体験ができる

ギエット邸は、シンプルな箱型の住宅です。正面と庭側の外壁は、上下を反転させたデザインになっていて、縦に伸びるガラス面を持つ階段と、水平連続窓を持つ居住空間の内部構成がそのまま外観に表れています。なかでも特徴的な階段は、建物の中を歩きながら建築を鑑賞するル・コルビュジエの「建築的プロムナード」の考え方が実践されています。階段は吹抜けを持つアトリエへとつながり、アトリエの道路側には大きなガラス面とバルコニーを備えた中2階が設けられています。さらにそこから屋上テラスへ出ることがでるようになっていて、室内から屋外へと連続する空間体験ができる設計になっています。

色彩による空間づくり

1980年代後半に行われた修復によって、ル・コルビュジエが設計当時に採用した色彩構成が検証されました。ル・コルビュジエにとって色彩は単なる装飾ではなく、「空間の広がりや性格を強調する建築的要素」でした。ギエット邸では壁ごとに色が使い分けられており、空間全体に統一感と変化が生み出されています。仕切りや天井は白、正面や背面の壁は青、居間の外壁や階段ホールはピンク、ホールや廊下は赤褐色、キッチン周りはこげ茶色が施されました。また、寝室は青・茶・グレー、屋上テラスは白・緑・ピンクというように、それぞれが空間に応じて計画的な色彩が見られます。これらの色は、光を反射させたり、奥行きを強調したりといった効果をもたらし、空間の感じ方そのものをコントロールしています。また外観については、当時のアントワープ市の建築規制で外壁の塗装が制限されていたため、ル・コルビュジエは「グラニリ」と呼ばれる塗装を使用し、花こう岩を思わせる青みがかった灰色の外壁に仕上げました。その後の改修で仕上げは変更されていますが、こうした当初の設計意図も踏まえながら保存・修復が行われてきました。ギエット邸は、建築家ル・コルビュジエの初期の住宅思想を伝える貴重な建築として高く評価されています。

執筆協力者PROFILE

高等学校教諭/NPO法人世界遺産アカデミー認定講師/世界遺産検定マイスター

兵庫県出身。中学3年生の夏休みの台湾ひとり旅をきっかけに、旅行先の歴史・景色・料理など、世界を知る魅力のとりこになる。「世界遺産を学習して見て感動して」をモットーに活動。全国通訳案内士の資格も有し、日本の魅力も発信している。
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兵庫県出身。中学3年生の夏休みの台湾ひとり旅をきっかけに、旅行先の歴史・景色・料理など、世界を知る魅力のとりこになる。「世界遺産を学習して見て感動して」をモットーに活動。全国通訳案内士の資格も有し、日本の魅力も発信している。
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