マルセイユのユニテ・ダビタシオン
独立した柱と梁の骨組みによる「ドミノ・システム」の展開形を示す代表例のひとつ(©Jean-Pierre Dalbéra/flickr/CC BY 2.0

住宅と都市の機能をもつ「垂直の庭園都市」

1945年、フランスの復興・都市計画大臣ラウル・ドートリーは、建築家ル・コルビュジエに、第二次世界大戦で壊滅的な被害を受けたフランス南部マルセイユにおける大規模集合住宅「ユニテ・ダビタシオン」の建設を依頼しました。ル・コルビュジエは、生涯で5つのユニテ・ダビタシオンを設計しています。なかでもマルセイユのユニテ・ダビタシオンは最初の作品であり、1947年から1952年にかけて建設されました。この集合住宅は「垂直の庭園都市」という考えのもとに計画されました。「ピロティ」とよばれる柱の上に持ち上げられた高床式の建物は、長さ135m、幅24m、高さ56mの直方体の形をしています。18階建ての建物には、約1,500~1,700人の住民が暮らし、23種類のタイプに分かれた330戸の住居が設けられています。また、7階と8階にはスーパーや郵便局、ホテル、レストランなどがあり、さらに屋上テラスには幼稚園やスポーツ施設が設けられるなど、都市の機能も備えているのです。

「海軍の機能性」と「修道院の簡素さ」で構成される内部

ユニテ・ダビタシオンは、「ボトルラック」とよばれる鉄筋コンクリートの柱と梁の骨組みの中に住居をはめ込む構造で建設されました。23種類ある住居は、単身者用から大家族用までさまざまですが、基本的には3つの標準ユニットによって構成されています。1つ目は玄関・廊下・キッチン・リビングのユニット、2つ目は主寝室と水回りのユニット、3つ目は子ども部屋のユニットです。これらを現場で組み立てることで、メゾネット方式の二層構造の住居ができあがりました。二層構造にすることで天井が高くなり、垂直方向への開放的な空間が生み出されたのです。さらに、すべての住居には水道、セントラルヒーティング、トイレ、浴室、換気といった当時としては先進的な設備が備えられていました。キッチンには、電気コンロ、ゴミ投入口、冷蔵庫、多くの収納もありました。これらの空間設計や設備には、ル・コルビュジエが考案した建築寸法「モデュロール」が用いられています。モデュロールとは、西洋人の平均身長183㎝の人が腕を上げた高さの226cmを基準に、黄金比を組み合わせて導き出した独自の建築寸法です。この数値を用いることで、人が圧迫感を感じない高さの天井高を実現し、手すりや棚に自然に手が届くように設計することができるのです。また、隣接する住居同士が直接接していない構造になっているので防音性が高く、それぞれの住居のプライバシーも守られていました。これは、ル・コルビュジエが1907年に訪れたイタリアのフィレンツェ近郊にあるエマ修道院の生活様式から影響を受けたもので、個人の暮らしと共同生活の調和を重視した新しい集合住宅のあり方を示すものです。

執筆協力者PROFILE

高等学校教諭/NPO法人世界遺産アカデミー認定講師/世界遺産検定マイスター

兵庫県出身。中学3年生の夏休みの台湾ひとり旅をきっかけに、旅行先の歴史・景色・料理など、世界を知る魅力のとりこになる。「世界遺産を学習して見て感動して」をモットーに活動。全国通訳案内士の資格も有し、日本の魅力も発信している。
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