北京と瀋陽の故宮
北京の故宮は、2024年に世界遺産に登録された『北京の中軸線:中国首都の理想的秩序を示す建造物群』にも含まれている

遺産DATA

地域 : 東・東南アジア 保有国 : 中華人民共和国 所在地 : 北京市、遼寧省瀋陽市 分類 : 文化遺産 登録年 : 1987年 範囲拡大年 : 2004年 登録基準 : (i) (ii) (iii) (iv) 遺産の面積 : 0.8496㎢ バッファ・ゾーン : 1.531㎢ 座標 : N39 55 1.62 E116 23 49.74(北京の故宮)

about

建物の配置や装飾に現れた王族の価値観

故宮とは「昔の宮殿」という意味です。北京の中心部にある故宮と、中国東北部の瀋陽にある故宮はともに明・清王朝の皇帝が居城とした宮殿の遺構で、かつては紫禁城と呼ばれていました。禁城は一般人が立ち入ることを禁じるということを意味します。北京と瀋陽にある故宮は、15世紀から20世紀にかけて、封建時代後期の中国における国家権力の中心でした。今も残る建築群の配置や設計、装飾など宮殿のさまざまな構成要素の中に、明清時代の王族の生活様式や価値観が反映され、当時の宮廷文化を物語っています。中国の官営建築として最高の技術的・芸術的成果といえる木造建築が保たれていることも高く評価されています。

中国最大の木造建造物が現存する北京の故宮

北京の故宮は、明の永楽帝が造営を開始し、1421年に都を北京に移した際に居城としました。明・清時代の約500年間、計24人の皇帝が居城とし、政治の中枢となりました。東西約750m、南北約960mの広大な敷地には、明代には9,000人の女官、10万人の宦官が住んでいたといいます。敷地は大きく2つに分けられ、南は皇帝が公務を行う外朝、北は居住に用いる内廷とされました。外朝には南から順に太和殿、中和殿、保和殿の3つの建物が並んでいます。太和殿は現存する中国最大の木造建造物で、皇帝の即位や祭礼など重要な行事や儀式が執り行われました。保和殿は1789年以降、科挙の最終試験「殿試」の会場となったことで知られます。内廷は、皇帝のみが使うことを許されていた黄色の瑠璃瓦が葺かれた宮殿や多数の宮院で構成され、当時の華やかな宮廷文化を今に伝えています。

遊牧民族と漢民族の文化が融合した瀋陽の故宮

瀋陽の故宮は、北京の故宮の世界遺産登録から17年後の2004年、世界遺産に追加登録されました。清の前身である後金を建国したヌルハチと後継者ホンタイジにより着工され、1637年に完成しました。清が都を北京に移してからも、王族の離宮として使われていました。建物は中国の宮殿建築の伝統を踏襲しつつも、遊牧民族の住居パオを起源とする八角形の建物も配置するなど、清のルーツとなる遊牧民族の文化や建築技術が融合しているのが特徴です。皇帝のための祭祀場もあり、数百年にわたり遊牧民族が実践してきたシャーマニズムの風習の名残を感じさせます。

 

アクセス

北京の故宮へは北京市内の地下鉄「天安門東駅」または「天安門西駅」で下車。瀋陽の故宮へは北京駅から瀋陽北駅まで高速鉄道で5時間弱。地下鉄を乗り継ぎ、「中街駅」または「懐遠門駅」で下車。

執筆協力者PROFILE

毎日新聞記者・デスク/世界遺産アカデミー認定講師/世界遺産検定マイスター

文化遺産や美術工芸を自身のテーマに関西や北陸、四国で長年取材・執筆。アンコールやマヤなど海外の遺跡取材や、「世界遺産ポンペイの壁画展」などの展覧会運営にも携わった。国内唯一の点字新聞でデスクを担った経験から、世界遺産のアクセシビリティーにも関心を持つ。

Details

Outer Court
北京の故宮の顔ともいえるのが、外朝と呼ばれるエリアです。敷地中央の乾清門を境とした南北2つのエリアの南側に当たります。ここは皇帝が公務を行った場所で、前三殿と称された3つの建物、太和殿・中和殿・保和殿が南北に並びます。最も南にある太和殿は現存する中では中国最大の木造建造物。東西約64m、南北約37m、高さ約35m以上にも及び、その威容は見る者を圧倒します。ここは皇帝の即位や結婚、祭礼など重要な行事や儀式が執り行われた場所で、龍をモチーフにした彫刻が随所に施されているのを見つけることができます。内部には金箔張りの柱や玉座などもあり、別名「金鑾殿」とも呼ばれました。1420年に創建されましたが、幾度かの火災に見舞われ、現存しているのは1695年に再建された建物です。
Inner Court
北京の故宮を南北2つのエリアに分けた北側の部分は内廷と呼ばれます。主に皇帝のプライベートな生活空間として使われた場所で、多数の宮院が建ち並んでいます。建物を支える大理石の基礎、皇帝のみが使うことを許された黄色の瑠璃瓦、赤く塗られた壁や柱……。いたるところから当時の華やかな宮廷生活がしのばれます。神事を行った祭壇などからは、清のルーツである女真族の伝統文化をうかがい知ることもできます。
The Gates of the Forbidden City (Beijing)
北京の故宮の周囲には東西南北それぞれひとつずつ城門があり、南は午門、北は神武門、東は東華門、西は西華門と呼ばれます。また、故宮内部にも多くの門が存在します。南側の外朝(政治や儀礼の場)と、北側の内廷(皇帝の私的空間)の間には、2つの空間を隔てる乾清門があります。皇城の南端に位置する天安門を入り、故宮の入り口となる端門、正門である午門、外朝入り口の太和門、そして乾清門を経て内廷へと至る多層構造は、中国古代の都城の配置である「五門三朝」の制度に影響を受けているとされています。
Imperial Palaces of the Ming and Qing Dynasties in Shenyang
清の前身、後金を建国したヌルハチによって建設されたのが瀋陽の故宮です。中国を統治した最後の王朝、清の礎を築いた場所とも言えます。敷地面積は約6万㎡と北京の故宮に比べて規模は小さいものの、東路・中路・西路の3つのエリアに分けられ、約70の建物が建ち並びます。最も早い時期に建てられたのが、1626年創建の大政殿です。東路に位置し、遊牧民族の住居パオのような八角形の建物となっています。大政殿へといたる通路の両側には、すべて同じ建築様式で建てられた10の建造物群があり、十王亭と呼ばれています。ここは、ルーツである女真族の狩猟組織を発展させた清の軍事制度「八旗」の拠点であり、またそれを象徴する建物でもありました。中路の正殿である崇政殿は、清代皇帝の居住地でした。2代目ホンタイジはここで政務を行ったそうです。西路の北部には文遡閣と呼ばれる建物があり、乾隆帝によって編纂された四庫全書が納められていることで知られます。瀋陽の故宮は現在、北京の故宮と同様に博物館として公開され、かつての栄華を今に伝えています。

遺産DATA

所在地 : 北京市、遼寧省瀋陽市
分類 : 文化遺産
登録年 : 1987年
範囲拡大年 : 2004年
登録基準 : (i) (ii) (iii) (iv)
遺産の面積 : 0.8496㎢
バッファ・ゾーン : 1.531㎢
座標 :N39 55 1.62 E116 23 49.74(北京の故宮)

アクセス

北京の故宮へは北京市内の地下鉄「天安門東駅」または「天安門西駅」で下車。瀋陽の故宮へは北京駅から瀋陽北駅まで高速鉄道で5時間弱。地下鉄を乗り継ぎ、「中街駅」または「懐遠門駅」で下車。

執筆協力者PROFILE

毎日新聞記者・デスク/世界遺産アカデミー認定講師/世界遺産検定マイスター

文化遺産や美術工芸を自身のテーマに関西や北陸、四国で長年取材・執筆。アンコールやマヤなど海外の遺跡取材や、「世界遺産ポンペイの壁画展」などの展覧会運営にも携わった。国内唯一の点字新聞でデスクを担った経験から、世界遺産のアクセシビリティーにも関心を持つ。