【世界遺産はどう決まる?】第13回|さまざまな登録の仕方③
二重で登録されている北京の故宮(©VisualCoordinates/Adobe Stock)

第13回も、引き続き世界遺産登録のさまざまな種類です。世界遺産というと、ひとつの文化財や自然環境が、ひとつの世界遺産に登録されるイメージが強いと思いますが、ひとつの文化財が複数の別の世界遺産に登録されるということもあります。

目次

個別の登録とエリアでの登録
OUVの価値の追加や拡大による変更
二重で登録される世界遺産

個別の登録とエリアでの登録

これまで見てきたように、世界遺産のOUVと保護するための法律によって、個別での登録か広いエリアで登録か、シリアル・サイトか、はたまたトランスバウンダリー・サイトか、というように登録の仕方が異なってきます。

個別の登録とエリアの登録というのは、明確に登録の仕方が異なるわけでは無いのですが、前回書いた『姫路城』は、国宝の天守群と特別史跡になっている周囲の内曲輪までが世界遺産のプロパティ(登録エリア)となっていて、『広島平和記念碑(原爆ドーム)』などと同じく核となるひとつの資産を中心に登録されているので、個別の登録と言うことができます。

一方で、『日光の社寺』では、二荒山神社と東照宮、輪王寺の二社一寺が中心となり、東照宮の陽明門などの国宝や重文が個別に保護されているのですが、その周囲の自然環境が自然公園法で保護されているため、『日光の社寺』はエリアで登録されている遺産と言えます。シリアル・サイトである『古都京都の文化財』の場合、構成資産の清水寺から慈照寺まで歩いている間は世界遺産ではないのですが、エリアで登録されている『日光の社寺』では、東照宮から輪王寺まで歩いている間も世界遺産ということになります。

OUVの価値の追加や拡大による変更

こうした登録の仕方は、登録範囲の拡大によって変更されることもあります。

例えばフランスの『ロワール渓谷:シュリー・シュル・ロワールからシャロンヌまで』の場合だと、現在は130以上のフランスの王権を象徴する美しい城館があるロワール川沿いがエリアで登録されていますが、もともとは登録基準(i)のみで、1981年に「シャンボール城と領地」としてシャンボール城が個別で登録されていました。しかし、2000年に「シャンボール城と領地」のOUVに文化的景観の価値を加える形でエリアに拡大され、登録基準も(ii)(iv)が追加されて(i)(ii)(iv)となりました。

また『カナディアン・ロッキー山脈国立公園群』も現在はエリアで登録されていますが、ここにはもともと1980年に個別の資産として登録された「バージェス頁岩」がありました。1984年に『カナディアン・ロッキー山脈国立公園群』を登録する際、その価値の中に「バージェス頁岩」と重なるものがあるため、「バージェス頁岩」を『カナディアン・ロッキー山脈国立公園群』に組み込むこととなり、個別の資産としての「バージェス頁岩」はリストから抹消されました。この辺りが「シャンボール城と領地」の時と少し違います。

二重で登録される世界遺産

これまでの例とは異なる登録の仕方に、あるOUVで世界遺産に登録されている文化財や自然環境でも、別の異なる世界遺産のOUVを証明するのに必要であれば、その世界遺産の構成資産として登録することができるというものがあります。つまり、ひとつの文化財や自然環境が、異なる世界遺産として二重に登録されるということです。

例えばフランスのモン・サン・ミシェルは、『モン・サン・ミシェルとその湾』として1979年に個別で世界遺産登録されていますが、1998年に『フランスのサンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路』の構成資産にも含まれました。この2つの世界遺産のOUVは異なるため、範囲の変更や価値の追加ではなく別の世界遺産としての登録になりました。そのため、2つの世界遺産でプロパティの範囲も異なっており、『モン・サン・ミシェルとその湾』では周囲の干潟までがプロパティに含まれている一方、『フランスのサンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路』では島の部分だけがプロパティになっています。

こうした例は特に珍しいものではなく、2024年に登録された『北京の中軸線:中国首都の理想的秩序を示す建造物群』に含まれる北京の故宮は、1987年に『北京と瀋陽の故宮』としても登録されていますし、先述の『フランスのサンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路』には、1979年登録の『ヴェズレーの教会と丘』のサント・マドレーヌ教会や1981年登録の『アミアン大聖堂』なども構成資産として含まれています。

≪前回の記事はこちら

≫最終回「新しい遺産の形」に続く

連載【世界遺産はどう決まる?】が書籍化されます!

世界遺産はどう決まる?今こそ知りたい世界遺産のしくみ!

『世界遺産はどう決まる? 今こそ知りたい世界遺産のしくみ!』(マイナビ出版)

●発売日(予定)
2026年5月29日
⇒6月16日に変更になりました。発売を心待ちにされていたお客様、関係者の皆様には、多大なるご迷惑をおかけいたしますこと、深くお詫び申し上げます。
●著者
宮澤光(NPO法人世界遺産アカデミー主任研究員)
宮脇佳子(NPO法人世界遺産アカデミー研究員)

「世界遺産はどう決まるの?」という疑問に答える一冊です。世界遺産登録の背景や世界遺産が決まる現場である世界遺産委員会の解説ほか、2025年に開催された第47回世界遺産委員会の報告や、新規登録遺産の審議内容に加えて、世界遺産登録に実際に関わっていらっしゃるUNESCO日本政府代表部 特命全権大使 加納雄大氏と、文化庁文化資源活用課 文化遺産国際協力室 鈴木地平氏のインタビューも掲載。世界遺産の最新の現場がわかる一冊になっています。

執筆者PROFILE

NPO法人世界遺産アカデミー主任研究員

北海道大学大学院博士後期課程を満期単位取得退学。仏グルノーブル第Ⅱ大学留学。2008年より現職。世界遺産に関するさまざまな書籍の編集・執筆・監修を手掛けるほか、「チコちゃんに叱られる!」(NHK)などの多くのメディア出演や、全国各地で100本を超す講演・講座を実施している。著書に『13歳からの世界遺産』(マイナビ出版)、『世界遺産のひみつ』(イースト・プレス)など。
≫世界遺産の執筆記事一覧
≫構成資産・みどころの執筆記事一覧
≫コラムの執筆記事一覧