【世界遺産はどう決まる?】第11回|さまざまな登録の仕方①
国宝に指定されている姫路城の連立式天守群(©宮澤光)

第11回は、世界遺産登録のさまざまな種類です。基本的には締約国が自国にある遺産を推薦するのですが、単独の遺産を推薦する場合や複数の資産を組み合わせて登録する場合のほかに、国境を越えて広がる資産を複数の国で協力して登録する遺産などさまざまあります。

目次

単独のプロパティで登録されている『姫路城』
複数のプロパティで構成される「シリアル・サイト」
構成資産の全てで「ひとつのOUV」を証明する

単独のプロパティで登録されている『姫路城』

世界遺産の登録でイメージしやすいものは、『姫路城』のようにひとつのプロパティ(資産)で登録されているものです。世界遺産の『姫路城』と、皆さんがイメージする姫路城が一致しているので、比較的に理解がしやすいのです。

しかし、「姫路城」と聞いて多くの人がイメージするのは、JR姫路駅からも見える大天守だと思いますが、世界遺産に登録されている『姫路城』の範囲は、大天守を中心としたかつての内曲輪とその周囲の中曲輪の内側のエリアです。(中曲輪の南東の角は含まれません。)

まだ内曲輪の中は一般の車も入れない場所なので、世界遺産の範囲だと言われれば納得ですが、中曲輪の内側は道路があって、人が住んでいて、中学校や高校などがある「普通の街」に見えます。その辺りまで世界遺産に登録されているということは、あまり知られていないように思います。

世界遺産というのは、文化財や自然環境などを保護する取り組みなので、遺産を保有している国の法律などで法的に保護されている必要があります。世界遺産『姫路城』の登録範囲は、文化財保護法の特別史跡に指定されているエリアです。私たちが「姫路城」と聞いてイメージする大天守を含む連立式天守群は、文化財保護法の国宝に指定されていますが、その国宝を保護するように周囲に設定されている特別史跡のエリアまでが世界遺産になっています。

ちなみに、プロパティの周囲を保護するバッファーゾーンには、JR姫路駅からまっすぐ大天守に向かって伸びる大手前通りも含まれているため、姫路城の景観が保護されて、姫路駅を出てすぐに美しい姫路城が見えるのです。

複数のプロパティで構成される「シリアル・サイト」

一方で、『古都京都の文化財』のように、京都府の京都市と宇治市、滋賀県の大津市に点在する17の資産が集まって、ひとつのOUVをもつ世界遺産として登録されているような場合もあります。こうした遺産はシリアル・サイト(連続性のある遺産)と呼ばれます。

シリアル・サイトは、それぞれの構成資産のプロパティが隣り合っている必要はなく、『古都奈良の文化財』のように同じ市内にある場合もあれば、『明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業』のように、鹿児島県から岩手県まで日本各地に点在している場合もあります。また『ル・コルビュジエの建築作品:近代建築運動への顕著な貢献』のように、構成資産が国境を越えて複数の国にまたがる場合もあります。それはトランスバウンダリー・サイトとも呼ばれます。

構成資産の全てで「ひとつのOUV」を証明する

シリアル・サイトでは、文化や社会・歴史的背景、景観、自然環境、生態系などが共通する資産を、全体としてひとつのOUVをもつ世界遺産として登録しますが、個別の構成資産がそれぞれでOUVをもっている必要はありません。世界遺産としてのOUVを証明するために複数の資産を用いている、という方がわかりやすいかもしれません。

先述の『姫路城』で考えると、OUVである「城郭としての美的完成度」や「木造城郭の建築技術や建築様式」を証明するのは、姫路城の中曲輪の内側だけで十分なので、単体のプロパティで世界遺産に登録されています。一方で『古都京都の文化財』では、OUVである「日本の文化的伝統を作り上げた宗教建築や世俗建築と庭園設計」、「日本各地だけでなく世界にも影響を与えた庭園」、「前近代の日本の各時代を代表する建築様式と庭園様式」は、どれかひとつの寺院や神社では証明することができないため、複数の資産を組み合わせて証明しています。

これは、ひとつのプロパティの範囲の中にOUVを証明するすべての構成物を入れようとすると、どうしても関係のないものまで間に入ってきてしまい保護や管理の点で難しくなるため、シリアル・サイトでの登録が有効になってくるという側面もあります。

また、将来的に構成資産を増やすことを前提とした推薦書を出すことが可能で、最初に登録される遺産でOUVが認められれば、そこに登録範囲の拡大として構成資産を加えることができます。『平泉-仏国土(浄土)を表す建築・庭園及び考古学的遺跡群-』は複数年の審議を前提とした推薦ではありませんでしたが、構成資産の追加を目指しており、追加する資産を暫定リストに記載して新規登録と同じ手順で進めています。

シリアル・サイトは、構成資産全体でひとつのOUVを証明しているため、逆に言えば構成資産のひとつで価値が損なわれるようなことがあっても、それがすぐに遺産全体のOUVを損ない危機遺産リストに記載されるというわけではありません。もちろん、全体のOUVに影響があるような危機の場合は話が別ですが。

≪前回の記事はこちら

≫第12回「さまざまな登録の仕方②」に続く

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●発売日(予定)
2026年5月29日
●著者
宮澤光(NPO法人世界遺産アカデミー主任研究員)
宮脇佳子(NPO法人世界遺産アカデミー研究員)

「世界遺産はどう決まるの?」という疑問に答える一冊です。世界遺産登録の背景や世界遺産が決まる現場である世界遺産委員会の解説ほか、2025年に開催された第47回世界遺産委員会の報告や、新規登録遺産の審議内容に加えて、世界遺産登録に実際に関わっていらっしゃるUNESCO日本政府代表部 特命全権大使 加納雄大氏と、文化庁文化資源活用課 文化遺産国際協力室 鈴木地平氏のインタビューも掲載。世界遺産の最新の現場がわかる一冊になっています。

執筆者PROFILE

NPO法人世界遺産アカデミー主任研究員

北海道大学大学院博士後期課程を満期単位取得退学。仏グルノーブル第Ⅱ大学留学。2008年より現職。世界遺産に関するさまざまな書籍の編集・執筆・監修を手掛けるほか、「チコちゃんに叱られる!」(NHK)などの多くのメディア出演や、全国各地で100本を超す講演・講座を実施している。著書に『13歳からの世界遺産』(マイナビ出版)、『世界遺産のひみつ』(イースト・プレス)など。
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