高揚感のあるパリの街灯り
飛行機の小さな窓からのぞくと、早朝の明けきっていない景色は青白くくすんでいる。大地には光りの線で結びつけられたいくつもの街灯りのかたまりが見え、その先にパリのものと思われる大きな街灯りが見えた。チャールズ・リンドバーグじゃないけれど、長く窮屈な飛行機旅の末に見るパリの灯りは、疲労感を忘れさせるほどの高揚感がある。
2022年2月にロシアがウクライナに侵攻し、同じ月のうちに欧州議会がEU領空へのロシアの航空機の侵入を禁止すると、ロシアもそれに対抗してロシアの領空にEUの航空機が侵入することを禁止した。だから当然、僕が乗った羽田発のエール・フランス機もシベリア上空は通らずに、アラスカの西の端の上空を通過する。2024年12月にはロシア上空を飛行するアゼルバイジャンの民間機をロシア軍が誤って撃墜したなんてニュースもあったから、EUとロシアのやり取りを大人げないなんて笑っていられない。ロシア軍は誤爆を認めていない(※)ものの、「何かは起こり得る」という情勢にあることは確かで、どこか遠く感じていたウクライナ問題を一気に身近に感じてしまう。
僕が乗った飛行機は、アラスカ上空から北極を経由して、英国上空を通りフランス北西からパリ方面に進入してきた。1927年にリンドバーグが初めてニューヨークからパリまで単独飛行を成功させた航路と最後の方だけは似ている。リンドバーグはパリ北東の郊外にあるル・ブルジェ空港に降り立ったけれど、僕を乗せたこの飛行機はさらにその先のシャルル・ドゥ・ゴール空港に向かう。
※2025年7月当時。その後、同年10月の首脳会談でプーチン大統領が責任を認め、賠償に向けて動き出した
モザイクのように広がる農地
小さい子どものように、おでこを窓にぴったりとつけるようにして見ていると、少しずつ明るくなる窓からの風景は、さまざまな濃度の緑や茶色を組み合わせたモザイク模様の農地に変わっている。農地の区分けが三角形だったり台形だったりまちまちで面白い。どうしてあんな風になるんだろう。四角形の農地を組み合わせた方が合理的な気がするけれど、地形とかいろいろ考慮に入れるとあの形がよいのかな。子どもたちが色とりどりの折り紙を使って工作をしたあとの切りかすを、神さまがきれいに隙間なく並べたみたいな感じ。それにしても、パリからそんなに離れていない場所でも一面に農地が広がる姿を見ていると、フランスはやはり農業国なんだなと改めて納得する。
国土の半分以上を占める農地
ヘキサゴンと呼ばれる六角形の本土の多くは平らな土地で、イタリアやスイスとの国境近くのアルプスや、フランス南部のピレネー、あとはローヌ川によってアルプスから切り離されたフランス中南部のマッシフ・サントラル(中央高地)に山地は集中している。この3つの地域にはそれぞれ世界遺産があって、文化遺産も自然遺産も複合遺産も揃っている。一方でパリ市内はほとんど平らで、映画『アメリ』でも有名になったモンマルトルが少し高いくらいだから、パリで生活していても山なんてほとんど目にしないし、岩山なんてまず見ることはない。
そうしたフランスの平らな土地を彼らはどのように使っているかというと、農業大国だけに農地や牧草地にしている。2024年のフランスの農業統計によると、フランスは国土の約52%を農地が占めている。52%というのはかなりの割合で、フランスの山地の割合は国土の30%ほどといわれるので、平らな場所の多くが農地として利用されていることがわかる。
その国土面積は日本の約1.5倍もあり、EU圏内では最大の大きさを誇っているから、農地の広さも相当のもので、EU圏内の農地の約18%がフランスにあるという。一方で、日本では山と海の距離が近く、平らな場所に多くの人が暮らしているため、国土に占める農地の割合は12%ほどに過ぎない。2024年の農林水産省のデータによると、フランスの農地面積は日本のそれの約610倍もある。すごい数字だ。
そんなことを考えているうちに、誘導灯が朝霞の中にぼんやりと光るシャルル・ドゥ・ゴール空港に着陸した。
写真・イラスト©宮澤光
執筆者PROFILE
北海道大学大学院博士後期課程を満期単位取得退学。仏グルノーブル第Ⅱ大学留学。2008年より現職。世界遺産に関するさまざまな書籍の編集・執筆・監修を手掛けるほか、「チコちゃんに叱られる!」(NHK)などの多くのメディア出演や、全国各地で100本を超す講演・講座を実施している。著書に『13歳からの世界遺産』(マイナビ出版)、『世界遺産のひみつ』(イースト・プレス)など。
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