食料自給率が高いフランス
買ったものを計算してみると、総重量6kgほどにもなってしまった。エコバッグにも入りきらない買い物の荷物を両手に抱えてヨロヨロと部屋に戻ると、ようやく落ち着くことができた。さっそく白ブドウを食べてみたら、瑞々しくてとてもおいしかった。のどが渇いていたこともあって止まらなくなる。食べても食べてもなくなる気配がないのがよい。
フランスでは外食費や家賃、ホテル代も、今の日本の感覚で行くと目玉が飛び出るくらい高い。出張前にスマホでホテル探しをしているとずいぶん目が乾いたので、たぶん3分の1くらいいつもより目玉が飛び出ていたと思う。
その反面、野菜やフルーツは日本よりもずっと安い。それはフランスの農業政策と食料自給率の高さに関係がある。フランスの食料自給率は、農林水産省の2024年のデータによるとカロリーベースで121%もある。日本の38%と比べるまでもなく高いことがわかる。
日本も農林水産省の試算では1961年で78%もあったが、少しずつ減っていって、1987年からは50%を切る状態が続いている。一方のフランスは同じ試算で、1961年に99%だったものが増えていき、最も高い時には149%もあった。食料自給率が150%近くもあるって、「自給率とは!?」と言葉の定義からして頭がちょっと混乱してくる。フランスは大陸にありEUという巨大な経済圏を持っているので、日本とは条件が全然違うけれど、それにしても対照的だ。
日本とは農業政策が異なっている
ヨーロッパでは、1962年からEU(欧州連合)の前身となるEEC(欧州経済共同体)が導入した共通農業政策(PAC)があり、現在もそれが続いている。これは共同体内では関税をゼロにして共同の大きな市場を形成し、農業従事者を保護しながら共通の農業政策の下で農業生産を安定・拡大していこうというもの。
これによってフランスは農業生産量が増えていくのだけど、そうすると国内での供給が消費を上回るようになってしまう。そこでフランスでは、余った分を輸出に回して生産体制を維持した。フランスのカロリーベースでの食料自給率が100%を超えているのはそのため。それだけでなく、輸入農産物の方が国内産よりも安い場合は、差額の課徴金を徴収して安い輸入農産物が入ってくることを抑えているという。徹底して国内の農業を保護している。
日本では同じく供給過剰になった時に、米の減反政策や穀物の輸入拡大など、国内生産量を抑える方向の政策を採ったため、そのままフランスとは逆の現状となっている。海に囲まれた日本の場合は、輸出するといってもコストがかかるため単純に比較はできないし、どちらの政策が「正しい」のか僕にはわからない。でも、昨今の米不足による混乱や、ロシアのウクライナ侵攻による小麦価格の高騰、「トランプ関税」の交渉などを見ていると、食料自給率の低さはリスクと隣り合わせであることは確かだと思う。
食料自給率の話は同時に、税金の使い道の話にもなってくるので難しい。EUでは農業従事者を保護するために農業所得の7割以上を補助金が占めている。もちろんそれに対する批判もあって、補助金は減らしていく方向にあるけど、それでも日本ではそれが3割程度だということを考えると、政策が根本的に異なると感じる。日本では、補助金で食いつなぐ産業に存在意義はあるのか!? というのが伝統文化の継承のところでも声高に叫ばれたりしたけど、そうしてその産業が無くなって困るのは僕たち自身だ。
日本では農業だけでなく教育や文化など、さまざまなところで税金による補助金を減らしていくのを「正」とする流れにあるけど、必ずしもそれが正しいとは僕は思えない。税金の使い道については、今回のフランスでもいろいろと感じるところがあった。それは僕たち市民がもっと関心を持たないといけないところなのだと思う。
森を切り拓き、平らな大地を農地に変えてきたフランスは、こうして農地を積極的に守る政策を採ってきたことで、EUだけでなく世界でも有数な農業大国になっているし、それが食料自給率の高さにもつながっている。それが消費者の僕の財布にも優しいのが嬉しい。
フランス人はグルメ・・・なのか?
もうひとつフランスが大切にしているのが、フランス料理。イタリアのフィレンツェからフランス王アンリ2世のもとに嫁いだカトリーヌ・ドゥ・メディシスが連れてきた料理人たちによって洗練されたとも伝わるけれど、フランス人はフランス文化の代表のように誇りをもっている。そして、無形文化遺産条約で保護されている食文化の第一号になっているのもフランス料理だ。
パリの街中を歩いていると、本当にたくさんのレストランやビストロ、カフェがある。そしてちょっとしたビストロでもかなり美味しい。フランス革命によって王や貴族に仕えていた料理人たちが職を失い、また特権をもっていた料理人のギルド(組合)が解散させられたこともあり、街中に料理人が溢れた。彼らが市民向けに食を提供するようになったことが、今の街中のレストランやビストロの文化につながっている。
でもすべてのフランス人が、いつもいつも美食にこだわっているかというと、そんなこともなくて、いつもはパンとパスタとサラダ、それに簡単なスープだけ、といったシンプルで質素なものを食べていたりする。大学の寮で一緒だった友人たちは、毎日のようにパスタにパルメジャーノチーズをすりおろして、そこにオリーブオイルをかけて食べていた。あとはバゲットを適当に手でちぎりながら食べる。そして本当に長い時間かけて話しながら食事する。
チーズやオリーブオイルが美味しいので、それだけでも結構いけるのだけど、さすがに毎日だと飽きる。フランス人大学生男子なんてほとんどが料理をしないから、彼らはあまり気にしていない。フランス人はグルメ、なんていうのは当てはまらない気がする。時々びっくりするくらい食にこだわっている人もいたけど。
でもまぁ、大学生男子が料理にこだわりがないなんて、日本でも似たようなものか。それでも彼らは、ドレッシングは買ってきたりしないで、オリーブオイルとビネガーと塩コショウでいつも手作りしていたりするから、こだわるところが違う。
写真・イラスト©宮澤光
執筆者PROFILE
北海道大学大学院博士後期課程を満期単位取得退学。仏グルノーブル第Ⅱ大学留学。2008年より現職。世界遺産に関するさまざまな書籍の編集・執筆・監修を手掛けるほか、「チコちゃんに叱られる!」(NHK)などの多くのメディア出演や、全国各地で100本を超す講演・講座を実施している。著書に『13歳からの世界遺産』(マイナビ出版)、『世界遺産のひみつ』(イースト・プレス)など。
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