電車、古すぎない!?/パリまで世界遺産委員会に来ています【第4回】
この連載は、2025年7月にパリで開催された世界遺産委員会の旅行記です。

目次

警察官によるパスポートチェック
本当に頼りになるのは僕みたいじゃない人
古いものを大事にするフランス人

警察官によるパスポートチェック

飛行機の座席と座席の間の狭い通路をペンギンのように連なってヨロヨロと出口に向かうと、飛行機と空港の建物をつなぐボーディングブリッジが詰まって全く先に進まなくなっていた。いつもは飛行機を出るとみんなスタスタと歩き出すので、こんなに詰まることはない。他のお客さんも、「何だどうしたんだ!?」と前方を覗いて頭を左右に振るけど、狭い通路に人が多すぎてよく見えない。

少しずつ前に進むにつれて、前方の人たちがパスポートを取り出しているのが見えて、僕も急いでパスポートを出す。それを見た後ろの人もパスポートを用意し始めて、誰もアナウンスしていないのに伝言ゲームのように後ろにメッセージが伝わっていくのが面白い。

どうもボーディングブリッジを出るところで数人の警察官がパスポート写真と乗客の顔の照合をしているようで、無言のままジェスチャーで帽子を取らせたり、顔を前に向けさせたりしながら念入りにチェックしている。人種か国籍か何かで絞り込んでいるらしく、僕の数人前の男性は止められてパスポートのいろいろなページを見られたり、何か聞かれたりかなり時間をかけて確認されていた。僕はほとんどノーチェックで通過することができたけど、フランスの警察は大きなライフルなども持っているので、こういう時は少し怖い。

本当に頼りになるのは僕みたいじゃない人

全く役立たずだった僕

降りたことがないゲートだったので、ここでもキョロキョロしながら入国検査場に向かう。これまた初めての検査場では、EUのシェンゲン協定圏内の国やそれ以外の国などで検査ゲートが異なっているため、それぞれのゲートの列が「わかりやすく」文字ではなく国旗のイラストで掲示されている。しかし、イラストに日本の国旗がないので逆にわかりにくい。

ひとりの高齢女性が、僕と同じように迷っていたので思わず「大丈夫ですか?」と声をかけてしまう。僕だって何もわかっていなくて全然大丈夫じゃないのに、こういうところが僕の悪い癖だ。お孫さんに会いに来たというその女性と、結局一緒になって「どっちでしょうね?」なんて言っているから、本当にポンコツな僕。

そんな迷える僕たちに声をかけてくれたのが、日本の政府機関から出向しているUNESCO職員のTさんだった。災害時の危機管理の専門家として南米での国際会議に参加した帰りというTさんは、きっと後光が差していたと思う。慣れた様子でゲートを案内してくれると、「僕はこれで!」とこれまた慣れた様子で去っていった。後日UNESCOの中庭で再会したけど、相変わらず爽やかだった。僕じゃなく、ああいう人に「大丈夫ですか?」って声かけてもらいたいよね。

古いものを大事にするフランス人

えっ、古すぎじゃない!?

空港からはパリ中心部へ向かう高速鉄道RERのB線に乗る。ホームが古くて暗いだけでなく、やってくる電車もめちゃくちゃ古い。20年前に留学していた時も古いと思ったけど、その時のをまだ使っているのか、50年くらい経っていそうな雰囲気。古すぎでしょ。

それでもデザインがかわいらしいので、70年代とか80年代のアンティークのようにも見えなくはない。デザインって大事だ。新しい車両も走っているので、新旧混在していて当たり外れがある。古い車両の車内は、日本のように明るく広告がたくさんあるなんてことはなくて、シンプルで少し薄暗い。

よく言えば、フランスは古いものを大事にする文化で、基本的には壊れるまで使うし、少し壊れたくらいなら修理をして使う。学生の頃の友人たちを思い出しても、古くなったという理由だけで捨てるなんてことはあまりしない。建物も古いし、車だって自転車だって古い、服だって古い。蚤の市もよく開かれていて、そこでガラクタにしか見えないようなものをフランス人が買っていくのも、そうした文化的な背景があるのだと思う。

そのせいで、電車はよく止まるし、走行中に車内の電気が消えるなんてこともよくある。最初は、困ったものだと思っていたけど、暮らしていたら気にならなくなり、むしろ古いものを大事に使っているのが好きになる。日本みたいに、古い建物をどんどん壊そうとすると市民が大反対をする。街の景観は共有財産だと思っているし、建物に刻まれた時間も彼らは大事にしているから。

日本の場合は、神道で常に新しく瑞々しいものを求める「常若(とこわか)」という考え方に通じるものが文化の根底にあって、それはかつての日本が木の文化であったこととも関係している。しかし、それが現代の経済原理と結びつくと、あまりよくない方向に向かうこともあると僕は思う。もちろん古すぎると不便なことも確かにあるので、程度の問題ではあるけど、彼らは便利さもたいして求めていないので根本的に違っている。

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写真・イラスト©宮澤光

執筆者PROFILE

NPO法人世界遺産アカデミー主任研究員

北海道大学大学院博士後期課程を満期単位取得退学。仏グルノーブル第Ⅱ大学留学。2008年より現職。世界遺産に関するさまざまな書籍の編集・執筆・監修を手掛けるほか、「チコちゃんに叱られる!」(NHK)などの多くのメディア出演や、全国各地で100本を超す講演・講座を実施している。著書に『13歳からの世界遺産』(マイナビ出版)、『世界遺産のひみつ』(イースト・プレス)など。
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