マルシェは楽しい/パリまで世界遺産委員会に来ています【第20回】
この連載は、2025年7月にパリで開催された世界遺産委員会の旅行記です。

目次

フランスといえばマルシェ
生活の質の向上の意味もあった
頼まれて出すこともある修正決議案

フランスといえばマルシェ

いつも行きがけに寄るブーランジェリーに向かうと、サックス通りではマルシェ(市場)の準備が進んでいた。サックス通りの中央は広い広場のような遊歩道になっていて、エッフェル塔が見えるその遊歩道は、いつもは何もなくて広々としている。それが今は4列に屋根が張られて、カラフルなフルーツや野菜などを並べたいろいろな店の準備が進んでいる。

フランスでは、店舗をもつスーパーや小売店の他に、広場や大通りの遊歩道などで開かれるマルシェがあって、多くの市民が訪れて買い物をする。そこでは生産者などが自分で直接、新鮮な季節のフルーツや野菜、チーズ、肉、パンなどを売っているだけでなく、クスクスやキッシュなどのお惣菜や、服や本、家具を売る店もあったりする。

日本で見たことがない野菜やフルーツ、キノコ類があったりして、「これ何だろう?」と思って近づいて見てもやっぱりよくわからないし、書いてある名前も全然聞いたことがない。そうしていると、お店の人が話しかけてくれてキノコの匂いをかがせてくれたりするけど、もちろん何だかよくわからない。

マルシェでは、お客さんもみんなお店の人とよく会話をしながら買い物をしている。お店の人は、歩きながら目が合っただけでも商品の奥から「ボンジュール!」って挨拶してくれるし、「どこから来たの? 仕事?」とか話しかけられることもある。だからマルシェは見て回るだけでも楽しい。もちろんスマホを見ていたり、全くこちらに関心を示さないお店の人もいて、それはそれでこちらも気にせず商品を見ることができるので気にならない。

生活の質の向上の意味もあった

今は買って帰れないしなあ・・・

パリでもさまざまな場所でマルシェが開催されていて、屋外のマルシェは週に2回ほど開催されることが多い。あまり行ったことがないけど、常設の屋内型のマルシェもある。

サックス通りのマルシェは、マルシェ・サックス・ブルトゥイユと呼ばれるもので、ブルトゥイユ広場からUNESCO前のセギュール通りの間で木曜と土曜に開催される。このマルシェの歴史は古くて、第三共和政時代の1873年に始まったらしい。そもそもこのマルシェが開かれる、エッフェル塔が真っ直ぐに見えるサックス通りの広い遊歩道は、ナポレオン3世時代のあのジョルジュ・オスマン知事の都市大改造によってできた。(※)

パリを近代都市にしたあの都市計画の下で、まっすぐ延びる大通りがつくられて明るく清潔な街になり、この辺りもごちゃごちゃとした小さな家に住んでいた貧しい人々が追いやられて住民も富裕層へと変わった。ここでマルシェが開かれるようになったのは、パリ・コミューンを制圧した第三共和政の政権が市民の生活の質を向上させようとしたこととも関係していて、マルシェ・サックス・ブルトゥイユは少し富裕層向けのものだったらしい。

フルーツや野菜を見ていると買って帰りたくなるけど、今から世界遺産委員会に行くので諦めた。

※正確には、オスマンの計画を引き継いだ、第三共和政の下で完成した。

頼まれて出すこともある修正決議案

よく見てみないと

世界遺産委員会では、前日に引き続いて保全状況報告の審議が行われている。決議文案に対する修正を含む審議が行われる場合、21の委員国からしか修正決議案を出せないだけでなく、委員国であっても自国の遺産については出すことができない。そのため委員国が主体的に出すのとは別に、審議される遺産の保有国が修正を望むときは、提出可能な委員国に修正案の提出を依頼することになる。

依頼された委員国は、頼まれたら何でもするわけではなく、依頼の修正内容を検討し納得できた時に修正決議案を提出する。世界遺産以外の活動を含めて国同士の案件の取引を大使が行うこともあるらしいけど、内容に納得できないような修正案でも頼まれたから出すということは、少なくとも日本ではない。

何年も世界遺産委員会を見ていると、「それ、ちょっと無茶じゃない?」ってのも修正決議案で出されたりすることもあって、そういう時は他の委員国などから反対意見が出されてだいたい揉めている。頼まれて修正決議案を出した国も、頼まれている以上、「ですよねぇ」って頭かきながら取り下げるわけにもいかず、かといって理に適った反論も難しく、議論は紛糾して長引くことになる。

もちろん、納得して修正決議案を出した場合でも、議論が紛糾することはよくある。今回だと、英国に頼まれて委員国の日本が修正決議案を提出した『ダーウェント峡谷の工場群』で、レバノンなどから反対意見が出されてかなり長い審議となった。

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(次回に続く)

写真・イラスト©宮澤光

執筆者PROFILE

NPO法人世界遺産アカデミー主任研究員

北海道大学大学院博士後期課程を満期単位取得退学。仏グルノーブル第Ⅱ大学留学。2008年より現職。世界遺産に関するさまざまな書籍の編集・執筆・監修を手掛けるほか、「チコちゃんに叱られる!」(NHK)などの多くのメディア出演や、全国各地で100本を超す講演・講座を実施している。著書に『13歳からの世界遺産』(マイナビ出版)、『世界遺産のひみつ』(イースト・プレス)など。
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